アミのひとり言

事務所のアイドル犬アミのひとり言です。

読点が決する切り餅訴訟

新潟県の切り餅業界第一位の佐藤食品工業と同第二位の越後製菓が争っていた特許問題に漸く最終決着がついた。切り餅には「切り込み」を入れることにより餅をふっくらときれいに焼くことができる。「切り込み」を入れない切り餅をオーブントースターなどで焼くと、ぷくぷくと膨れすぎて破裂し、中身が噴き出してしまう。

越後製菓は餅の側面に水平方向の切り込みを入れることにより、焼いて膨らんだ時に表面が破れないようコントロールする(形崩れを防ぎ、焼き上がりをきれいにする)という特許を2002年10月出願した(登録は2008年4月)。一方の佐藤食品は切り餅の側面に加え上下の表面にも切り込みを入れる方法を9ヵ月遅れの2003年7月特許出願した(登録は2004年11月)。特許は先願主義だから佐藤食品の特許が先に登録されていようと、先に出願した越後製菓の特許請求の範囲が問題になる。

第一審(東京地裁)は特許請求範囲を、越後製菓=「側面だけ(上下面に入れない)」、佐藤食品=「側面+上下面」と認定し、佐藤による越後の特許侵害はないとした。第二審(知財高裁)は越後製菓=「側面(上下面はどうでもよい)」と佐藤食品=「側面+上下面」を特許請求範囲とみなし、越後の側面が佐藤の特許請求範囲に含まれるとして、佐藤食品の特許侵害を認定した。9月19日の最高裁判決は第二審を支持、越後製菓の勝訴で最終決着した。(最判平24.9.19) 第一審で負けた越後製菓が逆転勝訴できたのは特許請求範囲を記載した文言に読点『、』が一つなかったからだ。

越後製菓は餅にどう切り込みを入れるかについての特許申請において「……切餅の載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、……切り込み部又は溝部を設け」と記載した。東京地裁はこの文章を「切り込みを(上下面に入れず)側面だけに入れる」と解釈したが、知財高裁・最高裁は「(上下面ではなく)側面に切り込みを入れる(上下面の切り込みは入れても入れなくてもどうでもよい)」と解釈した。もしも「切餅の載置底面又は平坦上面ではなく」と「この小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面」の間に読点『、』があったら、「側面だけ」と解釈するのが自然で、あやうく「サトウの切り餅」に軍配が上がっていたところだった。

かくして側面に切り込みを入れるという越後の特許を佐藤食品は使うことが禁じられ、約8億円の損害賠償を払うことになった。裁判の段階で佐藤が、越後製菓の特許出願前に商品化していたとする証拠資料が偽造と判断した点も越後勝訴の一因と思われる。斬新なアイディアを思いついた人の権利は保護されなければならない。佐藤食品はしばらく前から側面には切り込みを入れず、上下面だけに十字の切り込みを入れた切り餅のみを販売している。