アミのひとり言

事務所のアイドル犬アミのひとり言です。

日銀に通貨発行益はあるか

人口わずか700万人強のスイス(北海道の面積の半分)で人々があれだけ贅沢な生活ができるのは、間違いなく誰もが欲しがるスイスフランという通貨を持っているからだ。最近の相場はSF1≒\100、過去20-30年の推移はSF1≒\80-100の相場が多い。スイス国立銀行が発行する紙幣にはSF100(1万円)札、SF500(5万円)札、SF1,000(10万円)札まである。1万円札一枚の日銀製造原価は22円程度というから、SF1,000札の製造原価は約0.02%、通貨発行益(seigniorage)99.98%の根拠だ。

理論上、紙幣は発行するスイス国立銀行の債務証書だから負債の一部であり、印刷即利益計上はできない。しかし、数万フラン分のスイス紙幣がシリアの戦火で焼失してしまったら、シリアの大富豪は債権を主張する根拠を失い、スイスに通貨発行益が発生する。悪名高き番号口座(匿名口座)の持ち主も、半身不随になってスイスまでサインに出かけることができなくなったら、その預金は決して債権者の元に戻ることはなく、スイス国立銀行の通貨発行益となる。

番号口座を持つほどの大富豪でなくとも、自国通貨より信用できるとして財産のつもりでスイス紙幣を所有している人だって、スイス国立銀行は定期的に新しい紙幣を発行し、古い紙幣を失効させているから、財産はある時点から紙切れに変身する。スイス国立銀行は過去100年ほどで5回新紙幣を発行しては旧紙幣の流通を停止してきた実績を持つ。1万円(SF100)~10万円(SF1,000)相当の外貨を受け取って、対価に22円かけて作った債務証書を渡すだけだから、通貨発行益ほぼ100%の世界が存在するのだ。

世界の大富豪たちの多くが利用するスイス紙幣は、麻薬や人身売買など地下経済、国家の資金を私的に保有する独裁者の不正蓄財など訳ありのアングラ・マネーだから、資金洗浄(money laundering)してからでないと自国の金融機関に預けることができない。スイスはこれらの富裕層から必要とされている国なのだ。

ヒトラーの時代、当時のドイツを信用しないユダヤ人がスイスの銀行に預金していたが、ホロコーストで殺されてしまったユダヤ人は預金を下ろしに来ないので、スイスは大いに潤った。1996-7年、ナチス犠牲者の休眠口座の金の返還を求める在米ユダヤ人団体の集団訴訟に対して、スイス銀行側は12.5億砲稜綵?發鯤Г辰討い襦0貘欧發蹐箸盪Τ欧気譴織罐瀬篆佑圧倒的に多く、彼らは集団訴訟に参加しないから、これでもスイスが最終的に利益計上できた金額は、支払った賠償金をはるかに上回る。

現政権は日銀総裁を交替させて、国庫歳入の裏付けもないのに円紙幣を増刷させ、その日銀に国債を引き受けさせようとしているようだが、スイス国立銀行のような通貨発行益を狙っているならちょっと甘い。紙幣増刷でインフレにして、国の借金を実質的に減らすことはできても、国際的には円の信用を落とすだけ、天に向かってつばを吐くに等しい。