アミのひとり言

事務所のアイドル犬アミのひとり言です。

父子関係を決めるのはDNA鑑定ではない

先週、父子関係DNA鑑定訴訟の最高裁判決が出た(最判26.7.17)。旭川と大阪で、共に婚姻中の妻が、不倫関係に陥り、妊娠・出産、出産直後に別の男の子であることを夫に告白したが、子を実子として、婚姻関係もそのまま継続した事例。子どもが2才になる前に妻は夫と離婚し、不倫相手と再婚、子供も連れて行ったが、元夫はその子どもを自分の子として育てていたので、離婚後も親権と面会交流権を求めて元妻と争っていた。元夫は、妻との離婚を受け入れても、自分が育てていた子どもが自分の子でないとは認められず、一方の不倫妻側は、子を代理してDNA鑑定結果を示し、元夫は生物学上の父親でないと反証し、不倫相手の男を本当の父親と認めよと訴えていた。
 
一審・二審とも、DNA鑑定結果は究極の事実、科学的に父子関係が証明された以上、本当の父親は元夫でないとしたが、元夫側が納得せず、最高裁に上告していた。今回の最高裁判決は、法律婚と戸籍制度を基礎とする我が国民法の趣旨を優先し、民法772条「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する」という嫡出推定の規定を素直に適用した。この規定を適用しなければ、父と子という社会的関係は、唯一DNA鑑定で決定しなければならなくなり、父と子の見かけ、性格が極端に異なる場合は、まずもってDNA鑑定をしなければならないことになってしまうだろう。
 
民法は元々、血縁関係が全くない者同士が親子になることを想定しており、養子、特別養子は、通常、DNA鑑定をすれば、血縁上の親子関係が存在しないことは証明できる。しかし、親子関係を決めるのはDNA鑑定だけではなく、養子制度という社会の約束事が優先する。血縁関係がなくても、愛情を注ぐことで、親子の信頼関係は築けるし、相続上も養子と実子は同一の権利を有する。
 
今回の最高裁判決が関わる三件目の高松事件は、上記旭川・大阪事件と異なり、不倫した妻の夫が、この子は自分の子ではないとして、父子関係の取消しを求めた事案だ。DNA鑑定で科学的に父子関係不存在を証明しても、「妻が婚姻中に懐胎した子」だから、夫の子と推定され、民法777条「嫡出否認の訴えは、夫が子の出生を知った時から1年以内に提起しなければならない」により、夫の訴えは1年の期間を経過しており、今更自分の子でないとは言えないことが確定した。この場合は、旭川・大阪事件とは逆に、父子関係を否定しようとしたのだが、もっと早めに訴えを起こしていたとしても、婚姻中の懐胎であるから、夫は父と推定されることになろう。
 
夫婦の一方が不倫をしているかどうかは他方当事者が知っているべきで、裁判所は一方的にそのような不倫妻の味方をすることはないと言う趣旨かと思うが、高松事件の夫にとっては、実質的に自分の子でもない者を一生自分の子(嫡出子)とされることに納得いかないだろう。妻が勝手に産んだ子を自分の嫡出子とされるのを拒む権利くらいは認めてもよいのではないか。