アメリカ大統領に最低の男が就任して、米国はじめ世界各地で抗議デモが多発している中、日本では久々に明るいニュースだ。努力し続ければ、いずれ運命の女神が微笑んでくれるという筋書き通りの話である。昨年は四大関の中で琴奨菊、豪栄道の二人が初優勝、照ノ富士は一昨年優勝しているから、大関で優勝経験がないのは稀勢の里だけだった。稀に勢いのない大関だったのだ。
しかし、実力はその実績が証明している。大関在位31場所のうち、横綱に最も近い東の正大関在位18場所、幕内優勝の経験こそないものの、優勝次点は12回もある。朝青龍が辞めてからは白鵬の時代になったが、この白鵬戦で一番目立っているのが稀勢の里だ。2010年11月場所、63連勝中の白鵬を破ったのをはじめ、2011年1月場所、23連勝中の白鵬を負かしたのも2013年7月場所、43連勝中の白鵬を止めたのも稀勢の里だ。現役時代の朝青龍に何度か勝って、そのたびに殊勲賞ももらっているばかりか、2009年7月場所では朝青龍の全勝を止めたりもしている。
現役力士で白鵬に10勝以上した者は日馬富士(21勝34敗)と稀勢の里(16勝43敗)しかいない。大関31場所で負け越しはたった一度だけ(2014年1月場所、7勝8敗)、しかも昨年は年間最多勝(69勝)まで受賞している。昨年3・5・7月場所では13勝、13勝、12勝と三場所連続12勝をあげ、普通ならこれで横綱になるはずだが、運が悪かった。三場所連続12勝しながら横綱になれなかった大関は、過去、小錦と貴ノ浪だけ。横綱になるには、連続2回の優勝又は優勝同等とみなされる成績が必要だが、優勝次点も誤差の範囲で「優勝同等」ともいえる。昨年7月場所の12勝は優勝(横綱日馬富士、13勝2敗)と1勝差の次点だったから、この時に横綱になるべきだった。しかし、翌9月場所は10勝5敗に終わったので、彼は、結局、綱取りに合計6回失敗している。
昨年11月場所は12勝3敗で、またまた優勝次点、でも、今場所は漸く稀勢の里に運が向いてきた。横綱日馬富士と横綱鶴竜共に早々と途中休場で対戦せず、13日目の大関豪栄道も突然休場になり不戦勝、14日目で白鵬が3敗となったため、稀勢の里の初優勝が決まったのだ。しかも、横綱審議会は14日の時点で、稀勢の里の優勝が決まったのだから、千秋楽の白鵬戦の結果を問わず横綱にすべきと発言したから、精神的重圧がなくなり、思い切り白鵬をやっつけることができたのだろう。綱取り7回目でやっと運命の女神が微笑んだというものだ。
本来ならば横綱3人、大関3人と対戦して13勝くらいの成績を残さないと横綱に上がれないところだが、今場所はそのうち3人が休場、内一人は不戦勝までプレゼントしてくれた。現実は、横綱白鵬、大関照ノ富士に2勝、大関琴奨菊に1敗の成績、本来ならば、横綱・大関6人のうち4人以上に勝って13勝2敗以上で優勝しなければならなかったところ、辛抱した甲斐あってやっと幸運を手に入れた。30才で横綱は決して遅くない。第4代横綱谷風は39才で横綱に昇進、44才で引退している。横綱を期待されながら大関で引退した貴ノ浪、魁皇、千代大海、出島、武双山、雅山、栃東の分まで、稀勢の里には末永く、我が国出身の横綱として活躍してもらいたいものだ。