アミのひとり言

事務所のアイドル犬アミのひとり言です。

忘れられる権利

201111月に、児童買春・児童ポルノ禁止法違反で逮捕され、罰金50万円の略式命令が確定した男が、その後もインターネット検索サイトGoogleに、自分の名前と住所地の県名を入力して検索したら、自分の実名の逮捕歴が出てくるので、これは人格権の侵害だとしてGoogleに対し、個人データを削除するよう裁判で訴えた。一審判決(さいたま地裁201512月)は、男の言い分を認め、Googleにデータを消去するよう命じたが、二審判決(東京高裁20167月)では、男の請求を認めず、データの消去はしなくてよいとなった。二審判決に納得いかない男が上告していたところ、2017131日、ついに最高裁判決が出た。二審の東京高裁判決を支持し、男の請求に理由がないとして、Google Japanの勝訴となった。

これだけ悪いことをしていながら、裁判にまで訴えて、自分の逮捕歴を消去せよと主張した男の頭の中には、その前にEU司法裁判所が出した「忘れられる権利(Right to beforgotten)」判決があったはずだ。スペイン人Mario Gonzalezは、1998年、社会保障債権回収のため不動産の差押さえを受け、自己の名義の不動産が競売に付されたことが、Cataluña州の新聞 LaVanguardia に掲載され、これはインターネットでいつでも誰でも見れるので、人格権の侵害だとGoogle Spainに削除を求める裁判を起こした。スペインの裁判所が、上級のEU司法裁判所に裁定を求めたところ、2014313EU司法裁判所は、男の「忘れられる権利」は認められると、Google Spainに削除を命じたのだ。


もともと、EUではフランス・ドイツを中心にプライバシー権表現の自由に優先させる土壌がある。刑期終了後は前科の公表を拒むことができるという「忘却の権利」は、私生活の秘密と平穏を保持する権利であるプライバシー権の一種であり、「知る権利」や表現の自由に優先して保護に値するというものだ。かくして、EU司法裁判所は、情報が過剰な場合とか、一定の年月が経過した後などは、本人に損害を与え得る情報について、Googleに削除義務があるとした。


一方、日本の最高裁は、「検索結果を提供する必要性を、公表されない利益が上回るのが明らかな場合にだけ削除が認められる」と限定的に「忘れられる権利」を認めた。その上で、件の児童買春男については、児童買春・児童ポルノは強い非難の対象で、公共の利害に関する事件であり、事案の性質を考慮すると、検索結果の削除を認める必要はないということになった。


この実名入り逮捕歴が書籍になって書店等で販売される場合は、プライバシー権の侵害として、書籍の販売は差し止めされるだろうが、今回はインターネット上で検索したら表示されるという程度であり、しかも氏名と県を両方入力しないと、逮捕歴の検索結果が表示されないので、逮捕の事実が伝達される範囲は限られるとして、削除を認める必要はないと判断された。インターット上の「表現の自由」や「知る権利」を重視した判断で、インターネット社会においても、公益性の高い事件報道などは、検索サイトを通じて利用者が共有できる方が、社会のためになるということだろう。犯罪類型が悪質なのだから、逮捕歴を忘れられる権利などないと諦めてもらうしかない。