アミのひとり言

事務所のアイドル犬アミのひとり言です。

クラクション殺人事件で正当防衛

先日、路上で自動車を運転中、やくざ風の男に言いがかりをつけられ、窓ガラスをたたかれた。幸い、男が素手で窓ガラスをたたいただけで、ひびも入らず、ガラスは無傷だったが、渋滞がもう少し続いていたらどうなっていたか、わかったものではない。言いがかりをつけられた原因は僕の方にある。左折しようと合図をしていたのに、信号機が変わったと同時に行先を変更して(右折の方向指示器を出さずに)右折したものだから、後続のやくざ風の男が怒鳴り込んできたのだ。「免許証を出せ」「俺に謝れ」などとわめきたてるが、無視していたら、今にもガラスを割らんばかりの力でドンドンとたたきやがる。何キロメートル先かの交番に駆け込もうとスピードを出して走り去ると、途中から諦めて追跡をやめたのでほっとした。
 
2014115日午後355分頃、東京都町田市の交差点で、進路をふさいでいた大学生の車にクラクションを鳴らした会社員の車が、車から降りてきた大学生に言いがかりをつけられた。スキンヘッドの大学生(当時23才、容姿等からいかにも暴力団員風)が、会社員(当時44才、娘等同乗者3人)の車の開いていた運転席側後部ドア窓から頭と手を入れ、「殺すぞ」と怒鳴りながら会社員の後頭部の頭髪をつかみ,併走しだしたのだ。本当にやばいと思った会社員は、大学生がドアにしがみついている状態で車を急発進させ、国道を左折して、大学生が車の走行速度についていくことができないほどに加速して、約25mほど走った。大学生は振り落とされ、転倒し、頭などを会社員の車にひかれて死亡した。
 
現行犯逮捕された会社員は、警察に対して「すごい剣幕でドアにしがみついてきたので、怖くなって急発進させた」などと供述した。結果的には「クラクション殺人事件」なので、検察は懲役3年を求刑した。裁判では、会社員の行為は正当防衛か過剰防衛か争われた。刑法第361の正当防衛(無罪)が適用されるには、「急迫不正の侵害に対して自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずした行為」でなければならず、そのためには次の5つの条件がすべて充たされなければならない。
  1. 相手(大学生)の行為が切迫していること
  2. 相手の行為に違法性があること
  3. 自己(会社員)の側に攻撃の意思ではなく防衛の意思があること
  4. 自己の側に防衛行為の必要性があること
  5. 自己の側の防衛行為に相当性があること
 東京地判平28.9.16は、会社員の正当防衛を認め、無罪とした。クラクションを鳴らした会社員の車の窓の外からふいに頭髪をつかまれ、その手を振り梳くために自動車を急発進させたため、頭髪をつかんだ大学生が加速についていけずに転倒、死亡した事故であり、死亡が運転者の暴行によるものではなく、頭髪をつかんだ大学生の過失的自傷行為と判定されたのだ。彼は、振り落とされる前に、自らの自由意思で手を放すことができたのだから。自業自得と諦めてもらうのが妥当だろう。