アミのひとり言

事務所のアイドル犬アミのひとり言です。

犬の恩返しか、癌探知犬

人と犬の共生関係は1万年以上前にさかのぼる。オオカミを飼いならして狩猟犬としたのが始まりとも、外敵の接近を知らせてもらったり追い払ってもらったりしていたとも想像される。犬は人間の食料にならない骨を食べることもできるので、食糧不足の時でも利益相反関係になく、人間と食糧の取り合いをしなくて済む。野生の動物は目が合うと攻撃的になるが、人間と長い間共生してきた犬だけは、人間同様、目で感情を表現する。おねだりする時は目を合わすし、悪いことをしたと思っている時は目をそらす。その後、人が家畜を飼うのを手伝ってくれたり、雪道でソリを引いてくれたり、軍用犬、警察犬、盲導犬麻薬探知犬として助けてくれ、この5月からは正式な癌探知犬として、山形県金山町民の癌健診で活躍してくれることになった。
 
 犬の臭覚は人間の百万倍とも1億倍ともいわれる(犬種にも対象の物質にもよる)。初期の癌に罹患した人の呼気、汗、尿に含まれる揮発性の有機物質に、訓練した犬は反応する。あたかも、麻薬探知犬が麻薬に反応するように、訓練した癌探知犬は、癌患者の体内で生成される揮発性有機化合物(VOCs = Volatile Organic Compounds)に反応する。癌細胞がVOCsを生成しているというのは以前から知られていた事実だが、犬の嗅覚がVOCsを感知することが最初に医学的に報告されたのは1989年、英国の医者Dr. Hywel Williamsらだ。飼犬が飼主の皮膚の特定の部位をしきりに舐めるようになり、異常な行動に出るので、飼主が念のため病院で検査してもらったところ皮膚癌が発覚したということが2回ほどあった。飼主の男女二人とも、飼犬のおかげで癌の早期発見となって手術で除去でき、命が助かったというもの。犬が舐めていたのは悪性黒色腫malignant melanoma)だったと分析され、この医者は1989年、医学専門誌 The Lancet に発表した。
 
この情報は、捜索犬や水難救助犬など、いろいろな福祉犬を育成していた、福祉犬育成協会の佐藤悠二氏の目に留まり、彼がLabrador Retrieverを癌探知犬に育て、九州大学医学部の園田英人医師、日本医科大学の宮下正夫医師などと連携して癌探知手法を確立したのだそうだ。実験の結果、皮膚癌、食道癌、大腸癌、肺癌、肝臓癌、胃癌、すい臓、乳癌、子宮癌、前立腺癌、悪性リンパ腫など、30種類の癌のにおいを的中率95-100%の範囲で探知するようになった。呼気でも尿でも同様の結果になり、理論上は、人間が椅子に座った状態で体からわずかに出る汗でも検査できる。初期の癌細胞が発する少量のVOCsも感知するから、癌の早期発見には理想的だ。
 
 山形県金山町を含む最上地域は、胃癌による死亡率が非常に高い。鈴木町長は、町の新年度予算で町民の癌健診費委託料1,100万円を計上し、町民には無料で癌検診を行うことにした。町立金山診療所が尿を採取し、冷凍して日本医科大学千葉北総病院に送る。病院と提携している佐藤悠二氏の会社(株式会社St. Sugar Japan)の5匹の犬が、試験管に入った検体の尿をかぎ分け、その結果をもとに、病院側も尿に含まれるにおい物質などを特殊な機器で精密に分析し、癌の有無と種類を判定する。約3か月で結果は本人に知らされる。人間にとって負担のない検査方法なので、是非とも日本全国で導入してほしいものだ。最初に皮膚癌を教えてくれた英国人女性の飼犬は、保護施設から引き取った年齢不詳の雑種だったそうだ。これこそ、まさしく犬の恩返しではないか。