アミのひとり言

事務所のアイドル犬アミのひとり言です。

判決に翻弄される定年後再雇用社員

東京地裁判決2016.5.13は、一次定年後再雇用されたトラック運転手の給料を20-24%下げた再雇用条件は無効と、再雇用された従業員の勝訴判決を出したが、会社側が控訴し、東京高裁は、2016.11.9、会社側の主張を全面的に認める正反対の判決を出した。この裁判は、横浜の長澤運輸に長年、正社員として勤務した3人のトラック運転手が、2014年、60才の定年を迎え、1年契約の嘱託社員として再雇用されたが、嘱託社員の賃金規定が適用され、年収が20-24%も下がったのは不当だと訴えたもの。仕事は従来と全く同じ、給料だけが下がるのは、労働契約法第20条が禁じる不合理な差別だと主張した。
 
労働契約法第20条「有期労働契約を締結している労働者の....労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は....職務の内容....その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。
 
東京地裁佐々木裁判長は、「定年前と同じ立場で同じ仕事をさせながら、給与水準を下げてコスト圧縮の手段にすることは正当化されない特段の事情がない限り、同じ業務内容にもかかわらず賃金格差を設けることは不合理だ」と、給料を下げたことは違法だと指摘、この運送会社は「再雇用時の賃下げで賃金コスト圧縮を必要とするような財務・経営状況ではなかった」から、特段の事情はなかったと判断した。一般的に「雇用確保のため企業が賃金を引き下げること自体には合理性があるが、財務状況などから今回はその必要性はない」のだから、差額約400万円を3人に支払えとの判決を出していた。
 
それなのに、東京高裁の判決は3人の嘱託社員は間もなく年金をもらう年齢であり、一度退職金も受け取っており、定年後の再雇用で相当程度の賃金を引き下げることは、広く行われているとして、不合理な格差ではないと結論付けた。雇用が継続されるだけありがたいと思えと言わんばかりの論理である。せっかく認められた自分たちの主張が覆された3人の運転手は納得できず、最高裁に訴えていたところ、61日、ついに最高裁の判決が出た。しかし、最高裁が認めた「不合理な賃金格差」は月額5,000円の精勤手当のみ。従来支給されていた家族手当、住宅手当、時間外手当、賞与(基本給の5か月分)等が払われなくても「不合理な」格差とは言えないとした。基本給が12万円程度の収入の運転手に、これだけ各種手当を省略しても合理的であると判断する裁判官は、格差社会を助長するものではないか。
 
同日、浜松市の運送会社で非正規雇用契約社員(トラック運転手)が、正規雇用のトラック運転手(正社員)との賃金格差は、労働契約法第20条違反で無効だと訴えていた事件の最高裁判決が出た。これは、正社員に支給されている無事故手当、作業手当、超過勤務手当、給食手当、皆勤手当て、通勤手当は非正規の契約社員にも支給されるべきだとの判決を出した。非正規の運転手は定年の年齢に達していないので、この場合は、労働契約法第20条を厳密に適用するとの結論だ。