アミのひとり言

事務所のアイドル犬アミのひとり言です。

特殊詐欺も暴力団トップに損害賠償責任

20167月~8月にかけて、茨城県に住む女性二人が特殊詐欺で合計500万円をだまし取られた事件で、この偽電話詐欺事件を組織した暴力団組員の所属する住吉会会長・前会長に、605万円の損害賠償を命じる判決があった(水戸地判令1.5.23)。親族と偽って電話を掛けるかけ子、頼まれたと言って現金を受け取りに行く大学生の受け子が実行犯だが、集めた現金は実行犯の手元になく、損害賠償を請求しても支払う資力がない。そこで、暴力団対策法を適用して住吉会トップに、騙し取った金を弁償させるのだ。
 
詐欺罪などで懲役4年の判決を受けている組員と、組の周辺者(詐欺幇助罪で有罪判決)及びリクルートされた()大学生の3人は、親族を装って女性らに電話し、「金が必要だ」などともち掛け、500万円を騙し取った。うけ子の()大学生は暴力団員ではないが、組員が暴力団の威力を利用して知人にうけ子探しを要求したため、この知人が、断わったら自分の身の安全が脅かされると恐怖心を抱いて、大学生を紹介した。裁判所は、組員が住吉会の威力を利用して偽電話詐欺グループを構成したと認め、暴力団の最高幹部らの使用者責任を問えるとした。
 
実行犯が暴力団組員だけの場合は、最高幹部の使用者責任は認められやすい。東京地判平28.9.29において、裁判所は、暴力団極東会系の組員に恐喝で現金約2億円を奪われた聴覚障碍者男女27人に対する、会長の使用者責任を認め、実行犯組員二人と会長に19,700万円の支払いを命じている。極東会内部には上納金制度があると推認され、組員は会の事業の一環として恐喝や詐欺で資金を獲得しているため、組員の不法行為に親分(使用者)が責任を負うというものだ。
 
今回の特殊詐欺事件では、実行犯の()大学生は組員ではなく、被害者の女性に直接暴力団の威力を使ってもいないが、犯罪実行までの過程で組員が暴力団の威力を利用していれば、暴力団トップには、使用者責任が生ずるという判決で、今後の暴力団による特殊詐欺事件解決の大きな一歩だ。(詐欺行為には暴力団の威力を利用していないので、民法715条の使用者責任を適用)
 
暴対法では原則的に、(1暴力団員が威力利用資金獲得行為を行って、(2)他人の生命、身体又は財産を侵害した時は、(3)これによって生じた損害を暴力団の代表者などが負うと規定する。暴対法ができる前は、民法使用者責任715条)だけを使わざるを得なかったが、そのためには暴力団員の行為が、「暴力団の事業」として行われていたことなどを証明する必要があった。しかし、部下が勝手にやったことで親分が知らなかったと居直られると、反証は難しくなる。
 
水戸地判令1.5.23の翌日に出た特殊詐欺事件・東京地判令1.5.24では、使用者責任が認められなかったので、被害者側は控訴すると発表している。詐欺グループの組員に1100万円の賠償を命じたものの、暴力団住吉会会長の責任追及ができなければ被害者にお金は戻ってこない。実行犯の組員が住吉会に詐欺の収益を移動させたと立証されないので、使用者責任は生じないという論理だが、この裁判官、もう少し被害者の身になって、常識的な判決を書けないものか。