アミのひとり言

事務所のアイドル犬アミのひとり言です。

見事復活した元大関照ノ富士

 2020年1月場所の徳勝龍に続いて、今場所も幕下最下位力士の優勝という珍しい出来事があった。徳勝龍も幕内から2度も十両に落ちてはまた幕内に這い上がってきた力士だが、照ノ富士の場合はそのジェットコースターぶりが余りにも極端で、普通の日本人力士ならプライドが邪魔して相撲をやめていただろうと思われる。年俸3,500万円の大関から十両に陥落すると年俸1,500万円に収入が減るから、会社でいえば極端な降格だが、十両までは関取といって管理職、その下の幕下となると給料ゼロ、場所手当として2カ月に一度15万円のお小遣いしかない(年俸換算90万円)。三段目は場所手当10万円、序二段は8万円(年俸48万円)。

 

 せっかく無給の身分から管理職、重役並みの高給取りになった者が、また幕下に落ちて無給になるのは、元重役のプライドが許さない。大関経験者で幕下に陥落した者は照ノ富士しかいない。しかも彼は、ケガと病気のせいで三段目、序二段(2019年3月場所)まで番付を落としてもなお相撲をやめなかった。こんな根性のある力士は日本人にはいない。モンゴルでもまれな男だろう。

 

 18才でモンゴルから日本に相撲留学、19才初土俵、21才新十両で関取になってからは、22才新入幕、23才新三役(小結を飛び越えて関脇)、初優勝後新大関と順調に進んだ出世街道だが、190cm、180-190kgの巨体だけに両膝のけが(前十字靱帯損傷、外側半月板損傷、遊離軟骨)に加えて糖尿病、C型肝炎、腎臓疾患などの病気もあって、大関は14場所で陥落、27才で自身どん底の序二段から返り咲いた。地獄を見たおかげで酒豪が一切のアルコールを絶ったという。

 

 28才でようやく十両(2020年1月場所)に戻り、今場所遂に幕内最下位に戻った28才の根性の男は、13勝2敗で2度目の幕内優勝を実現した。幸運もあった。13日目、新旧大関大戦で大関朝乃山に勝った照ノ富士は1敗単独トップ、朝乃山は2敗で二番手、14日目、照ノ富士は負けて2敗になるも、同じ部屋の後輩照強(元付け人)が朝乃山に土をつけて3敗にした。千秋楽、照ノ富士が勝てば幕内優勝が決まる。両横綱白鵬鶴竜)共にケガで途中休場という好条件の中、千秋楽で負けても3敗3人で優勝決定戦となるところだったが、照ノ富士が勝ったため、結びの一番を待たずして優勝が決定した。

 

 重役から無給の一力士に成り下がるのはかなわんと、師匠の伊勢ケ浜親方(元横綱北の富士)には4度も5度もやめさせてほしいと頼んだそうだ。モンゴルに帰って違う仕事をするという。やめるやめないを決める前に、まず体を治せと師匠から諭され、プライドを捨てて、元大関は序二段で相撲を取った。決して諦めぬ不屈の精神があったから今回の優勝に結び付いた。両ひざを故障してからの二度目の相撲人生は、人の三倍トレーニングに励んだそうだ。この根性でまた大関に復活してもらいたいものだ。たまたま、今場所は照ノ富士の他、元大関が三人も幕内にいる。前頭14枚目琴奨菊(36才、2017年3月大関陥落)、11枚目栃ノ心(32才、2019年7月と2019年11月以降大関陥落)、13枚目高安(30才、2020年1月大関陥落)だが、みな怪我をして重役を首になっても年俸2,000~2,500万円の高給取りだ。無給でも頑張るというのはいないだろう。