アミのひとり言

事務所のアイドル犬アミのひとり言です。

900万円で治る認知症薬に異議あり

 先月、米医薬品メーカーBiogen(バイオジェン)と日本の製薬会社エーザイ(株)が共同開発したアルツハイマー認知症治療薬「Aduhelm(アデュヘルム)」を、条件付きながら、米FDA(食品医薬品局)が正式認証した。これにより、米国では、高額医療保険に入っている者は、4週間ごとに1回点滴投与をすることにより一年半後にはアルツハイマー型軽度認知症がかなり改善するという。そして、その費用は18か月分で$8.4万(900万円超)というから、Medicare(公的医療保険)はAduhelmが医療保険の対象になると、出費が年間$570億(6兆円超)増えると試算している。(日本の健康保険と違って半分以上は自己負担のようだから、公的負担は日本よりはるかに少ない)

 

 但し、すべてのアルツハイマー認知症に有効な薬ではない。アルツハイマー認知症は、20~30年かけて徐々に脳内のアミロイド・ベータ(Amyloid β)という異常なたんぱく質が蓄積して脳神経細胞を死滅させることにより発症する。Mild Cognitive Impairment(MCI)と分類される軽度認知症アルツハイマー型)の患者を対象に臨床実験をしたところ、Aduhelmを18か月投与することで、アミロイド・ベータが60%~70%減少し、認知症の進行速度を2割遅らせたという結果をもとに、FDAは治療薬として承認したが、そのFDAは昨年11月に「効果は認められない」として非承認の結論を出していたのだ。

 

 それが、先月再度検討して、今度は「承認」の結論を出したものだから、納得できないFDAの独立委員会メンバーの3博士が、抗議のため辞任した(Dr. Kasselheim, Dr. Alexander, Dr. Karlawish)。7カ月前、効果なしとされた薬に、効果が出てきたと判定を覆した背景に何があったのか、他のメンバーが買収されたのか、米下院監督・政府改革委員会はこの背景を議会で調査すると発表した。不確実な臨床結果のみならず、1回の点滴が50万円ほどという超高額な値段がどのように算出されたものか、国会議員が中心になって真相を追求することになった。あまりにも異常に高額な薬代は、アメリカの公的医療保険制度の持続性を潰すことにもなる。

 

 アルツハイマー病の患者は世界に3,000万人いるとの推計がある。日本に600万、アメリカに1,200万、但し、Aduhelmはこれらの患者用の薬ではない。アルツハイマー型軽度認知症(MCI)の患者しか対象にならない。アルツハイマー型MCI患者の数は日本240万、アメリカ480万くらい。日本で承認された場合、50万人くらいがAduhelmを利用すると仮定して、健康保険は3兆円の出費増になると試算している。

 

 厚労省は薬価をどの程度に設定するかも含め、日本での承認の検討に入っている。基本的には、問題があろうとも、一応アメリカで承認された薬を日本が認めないという論理はないから、いずれ日本でも使えるようになるだろう。その際に、「アルツハイマー病治療薬」としては正しくなく、「アルツハイマー型軽度認知症(MCI)にしか効かない」とはっきり表示しないと、効果もなく無駄に医療保険を使うことになる。Aduhelmはアルツハイマー万能薬ではないということをエーザイ(株)は丁寧に説明しなければならない。