アミのひとり言

事務所のアイドル犬アミのひとり言です。

地面師という名の職業


一般に医師・看護師・教師等「師」のつく職業は世間の評価が高く、世の中の役に立っている仕事をする人と思われがちだが、不都合なことに詐欺師という悪徳業者にも「師」がついている。更に地面師という不動産詐欺を専門にやっている詐欺師もいるから、漢字は誤解を招く。
 
昨年、大手住宅メーカ「積水ハウス」ともあろう不動産の専門家が、地面師グループに騙されて、まんまと63億円詐取されたという事件が起こった。積水ハウスにとってははした金かもしれないが、おかげでマンション事業部の担当者は自殺するし、社長も責任を追及されて交代する羽目になった。先週から今週にかけてこの地面師一味12人のうち9人までが逮捕されたと報道され、残り3人には逮捕状が出ていて、いずれ捕まるだろう。
 
不動産は法務局の登記で管理されているが、地面師一味は偽造したパスポートと印鑑登録証明書を使って地主に成りすまし、すっかり積水ハウスを信用させて、土地代金70億円の9割に相当する63億円を詐欺師グループに払ったという。通常、地面師が消える前に手に入れることができるのは手付金(売却代金の1割)だけだが、もともと100億円の価値のある土地を、あなたに限り、全額即支払ってくれるなら70億にしてあげると甘い言葉をかけてもらうと、ついつい乗ってしまうのが人情だ。所有権移転登記が済む前に全額払うのは納得いかないと積水ハウス側も交渉して9割なら払いましょうとしたのだろう。
 
件の土地は東京都品川区の600坪(約2,000㎡)の老舗旅館の跡地。山手線五反田駅から徒歩5分以内という好立地で、住宅メーカーならどこでもすぐに欲しくなる物件。地面師一味は偽造パスポートと偽造印鑑登録証明書を公証人に提示して、本人確認証明書を作ってもらい、積水ハウスを信用させたようだ。公証人がパスポートの偽造に気が付かないほど上手に作られていたのだろう。
 
同じ時期に、この一味は、別の不動産業者にもこの土地の売却話を持ち込んでいる。持ってきた登記済証のコピーに東京法務局品川出張所の印影があったので、品川出張所で確認したところ、偽造と思われると指摘され、不審に思ったこの業者はその旨指摘したところ、「失礼なやつだ。積水ハウスが待っているから結構だ」と言われ、その後連絡が途絶えたという。
 
法務局品川出張所から真正の地主(女性、73才)にも通知が行き、この女性から、仮登記をした積水ハウスに「登記済証は自分が持っており、提出された書類は全て偽造だ」と指摘する内容証明が届いたにもかかわらず、積水ハウスは、この内容証明は取引妨害の嫌がらせと信じ、法務局で確認する作業をしなかったという。63億円を詐欺グループに支払って1週間後、法務局から登記却下の通知が来て、ようやく詐欺に気がついたが、回収できたのは、7.5億円のみ、55.5億円の損失が発生した。まだ捕まっていない3人の仲間のうち、首謀者とみられる男(小山操、58才、改姓後カミンスカス操)はフィリピンに逃亡しており、警察が行方を追っている。積水ハウスは、いい話が飛び込んできても浮かれず、基本動作をすべきという教訓を得たのではないか。