アミのひとり言

事務所のアイドル犬アミのひとり言です。

ストックの意味

失業率20%という1980年代のイタリアで餓死者が出ず人々の暮らし向きは当時の日本より優雅に思えたのはなぜか種々考えさせられた。たまに買い物に行っていた小売店の店員さんと親しくなり自宅に呼ばれたことがあった。4階建てくらいの建物で3階に店員さん家族、4階に兄か弟の家族が住んでおり、1階と2階は借家にして家賃収入があるという。この建物は裕福だった親が建ててくれたもので、立派な家具はおじいさんの形見ということであった。代々商売がうまくいっていつも優雅に暮らしている家系は少ないであろうが、代々皆が貧乏で次の代に残すものが一切ないという家系もまれであろう。中には経済的にうまくいった代があり、そうでない代もあるので、長い目で見れば自分達も隣も大体同じということになるのだろうか。年齢40代か50代の、さほど大きくない小売店の一介の店員さんがこんな優雅な生活をしているとは驚きであった。そういえば会社にいた若い女子社員が冬はミンクのコートを着て会社に来ていたのも驚きであった。高価なものだから駐在員の奥さん達にも、高嶺の花だ。でもミラノの冬は非常に寒くやっぱりミンクは暖かいし、しかもおしゃれだからできれば欲しい。若い女子社員が持っていたミンクのコートはおばあちゃんが残してくれたものを仕立て直して着ているとのことだった。食事会につけてくる高価そうな装飾品も自分で買ったものではなく代々彼女の家に受け継がれてきたものであるという。ストックの世界とはこういうことかと認識を新たにした。そういえばヨーロッパには古い城がたくさん残っている。一方日本の城は木造で火災に弱いという弱点があるだけでなく政敵が破壊してしまう場合が圧倒的に多く、姫路城(世界遺産)のように元の姿で残っているものはまれだ。ヨーロッパにも城跡がたくさんあるからやはり政敵に破壊されたものもたくさんあるのだろう。洋の東西を問わず、城に限らず、神社・仏閣・教会等も反対勢力に破壊される運命にあったようだ。スペイン・コルドバに残る大聖堂(mezquita、世界遺産)は破壊を免れた珍しい例外かもしれない。もともとはキリスト教の教会が建っていたところに、8世紀イスラムが侵入してきてそれを巨大なモスクに増築・改造したが五百年後にはキリスト教徒が奪還してモスクの内装をかなりキリスト教風の大聖堂に改修した。現代の我々がみるとイスラムキリスト教が混然一体と共存しているように見える。宗教の対立から悲惨な戦争が繰り返されている折、最近イスラム教団体がカトリック教会にこの大聖堂をイスラム教徒とキリスト教徒の共有にして世界平和実現の拠点にしようと持ちかけたがカトリック教会側が拒否したというニュースを耳にした。またもやイスラム教徒に盗られてしまうのを恐れているらしい。もしこの話が実現すればコルドバの大聖堂はスペインの財産に留まらず文字通り世界の財産(ストック)になり、今後のイスラム教とキリスト教の対立から発生する争い・戦争をなくすべく世界の平和の砦になるところだったのに、非常に残念でならない。カトリック教徒だけのストックとせず、人類のストックとする英断を下せるお方(救世主)はまだお生まれになっていないのだろうか。