アミのひとり言

事務所のアイドル犬アミのひとり言です。

外れ馬券訴訟の行方

2007年から2009までの3年間に28.7億円を馬券に投資し、その結果30.1億円の払戻金を得た39才の元会社員がいる。総投資額28.7億円のうち、当り馬券となったものは1.1億円、外れ馬券となったものに27.6億円投資したことになる。大阪国税局は払戻金30.1億円を得るための原価を1.1億円とみなし、29億円が一時所得だから6.9億円の税金(無申告加算税を含む)を払えと馬券王を訴えた。

大阪地判平25.5.23は、外れ馬券に投資した資金27.6億円も、払戻金30.1億円を得るための必要経費と認め、全ての馬券購入にかかった金額28.7億円を経費と認定し、馬券王の3年間の雑所得が1.4億円と判定した。この場合、馬券王の3年間の納税額(脱税額)は5,000万円だけとなる。

争点は2点、外れ馬券に投資した金額(27.6億円)を経費とみてよいか、また、国税が主張するように、馬券の払戻金は一時所得なのか、である。一時所得とは「営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時的所得」であり、この馬券王は年収800万円のサラリーマンをやめ、投資額の105%の配当を確実に得る独自競馬ソフトを開発して、継続的に営利目的の馬券投資活動をしてきたのだから、馬券に投資して収益を上げ資産運用するのが彼の本職と言える。それを一時所得と断定するのは、まずこの天才馬券王様に対して失礼だ。

馬券を買った時点では当り馬券・外れ馬券の区別はなく、後で決まるものだから、結果的に当った馬券のみを経費とみるのは間違いだろう。会社でも、商品にならなかった製品の研究開発費を経費に入れるようなものだし、客になると思って使った接待費が無駄になったところで、経費として通している。一概に競馬ファン国税局を悪者とし、競馬ソフト開発運用者に好意的な見方をしている。

しかし、競馬ファンにとって一番恐ろしいことは、最高裁国税の主張が認められることだ。馬券王は6.9億円の一時所得税を支払うため、この競馬ソフトを多数の人に売り出して資金を捻出しなければならなくなる。1個100万円で売るとして、690人に売るわけだから、690人が投資額の105%を確実に回収するソフトを入手する。一方で競馬の配当は全体の75%と決まっているので、690人の競馬王が全員105%の払戻金を確保すると、ソフトを持っていない一般の競馬ファンの払戻金は平均75%だったものが37.5%に半減するだろう。

競馬は、たまに払戻金が出るから楽しいのに、その払戻金が半分に減ると楽しさも半減して競馬離れになると思われる。馬券王ソフトを持つ者と持たない者の格差は益々広がることになる。そして、やがて1,400人ほどの馬券王が日本中の払戻金全額を確保するので、一般の競馬ファンは一切払戻金を手に入れることができなくなるだろう。