アミのひとり言

事務所のアイドル犬アミのひとり言です。

列車にはねられた認知症夫、天国から応援

2007年、愛知県で認知症の男性(当時91才、要介護4)が徘徊中、JR東海の駅の構内で快速列車にはねられるという死亡事故があった。彼の介護をしていたのは、要介護1の妻(当時85才)、事故当日、夫婦2人きりだったところで、妻がまどろんで夫から目を離していた間に、夫が一人で外出してこの事故が発生した。
 
JR東海はこの事故により、快速列車遅延等の損害が発生したとして、男性の遺族に損害賠償を請求、事故に対応した職員の人件費、他社に振り替えた運賃、払戻金など720万円を請求して、一審で認められた。裁判では、男性の妻と首都圏に住む長男の二人が監督責任者であり、二人とも責任を負うとされた。しかし、遺族側は、認知症の老人をはねておいて、謝罪するどころか損害賠償請求などもってのほかと控訴した。その結果、二審(名古屋高判平26.4.24)は、長男は監督義務者でない、また、JR東海は、フェンスに施錠して認知症の老人が容易に駅構内に入って来ないように配慮すべき義務を怠ったと、妻だけに約359万円の支払いを命じた。自宅で、徘徊防止のため設置していた出入り口のセンサーを切っていたのは、妻の監督義務違反であるとした。
 
 監督義務者とされた妻とJR東海双方が上告していた本日の最高裁判決で、岡部喜代子裁判長は、男性の家族に賠償を命じた二審判決を破棄し、JR東海側の請求を棄却、家族側の逆転勝訴が確定した。今回のケースでは、男性の妻も長男も監督義務者にはあたらないと判断した。単に配偶者や家族であることだけで、当然に監督義務者になるものではなく、特別な状況がなければ監督責任を負わないと判示された。事故から8年、その妻も93才と当時の夫より高齢になったが、裁判に明け暮れた日々だっただろう。妻の疲れを心配して一足先に天国に旅立った夫が、岡部裁判長に、どうかこれ以上妻を苦しめないでくださいとお願いしたのではなかろうか。夫の応援があったからこそここまで頑張ってくることができたのかもしれない。


 我が国は、認知症の老人の入居できる施設が絶対的に足りない。従い、国は、極力自宅で暮らすように勧めている。認知症の老人が一人家にいると、家族は転寝もできないとなれば、ひもで縛っておけと言うのだろうか。運よく施設に入ることができた老人でも、施設の職員の監督責任が厳しく追及されるなら、やはりそこでも、基本はひもで縛りつけておかねばなるまい。それは一種の虐待でもあるから、別の問題もはらむ。

 
この種の事故によるJRの被害も、竜巻による被害も、天災と諦める性格のものだろう。滅多に起きる事件ではないのだから。