アミのひとり言

事務所のアイドル犬アミのひとり言です。

タクシーに乗る幽霊の実話

2011311日の東北大震災・津波は、約15,000人の死者、2,000人の行方不明者を出したが、一部は成仏しきれず地上に戻ってきているらしい。被災地では、幽霊の目撃談が相次いでいるそうだ。幽霊を信じない者にとって、幽霊を目撃するということは、医学的には、PTSD心的外傷後ストレス障害)の症状の1つなのだろうと思うのが当然だ。現に米国・カナダの大学などの共同研究によれば 大災害の被災者は5人に1人の割合で「他の人には見えないものを見る」と報告されている。亡くなった人を目撃する人の多くはPTSD患者で、特に殺人の現場を目撃したり、甚大な災害などで家族や友人を無残にも失い、強烈なショックを受けた場合に起こりやすいというから、幽霊を目撃する事実は、どちらかというと、精神的目撃と言うほうが正しいのかもしれない。
 
この春、東北学院大を卒業した社会学のゼミ生7名が、宮城県石巻市で多く寄せられる幽霊目撃情報を聴き取り、卒論にまとめて呼び覚まされる霊性の震災学──3.11生と死のはざまで(新曜社)という題名の本を出版した。石巻市は、地震津波により6,000人近くの尊い命が失われてしまった場所だ。執筆の中心は工藤優花さん(22)で、指導・監修は金菱清教授(40)
 
被災地・石巻市では、タクシーの運転手たちが「幽霊をタクシーに乗せてしまった」という不思議な話が数多く報告されている。災害と幽霊の関連性を調べて、学生たちが石巻のタクシー運転手に聴き回ったところ、そのうちの7名が実際に幽霊を乗せたと証言したのである。タクシーは「乗客」を乗せたらメーターを倒すので、料金が発生する。「乗客」が途中で消え去ると、無賃乗車扱いになり、その料金は、タクシー運転手の負担となる。幽霊が踏み倒した料金は、運転手が自分で弁償することになり、乗務日誌に「不足金あり」と記載する。従い、運転手が悪ふざけで身銭を切るようなことは普通にはあり得ないのだそうだ。
 
震災後の初夏、56才の運転手が深夜、石巻駅で客を待っていると、夏にもかかわらず、真冬のコートを着た30代ぐらいの女性が乗り込んできた。「南浜まで」と女性は行く先を告げた。「あそこはもうほとんど更地ですが、構いませんか。なぜ南浜まで? コートを着て暑くないんですか?」と運転手が尋ねると、女性は震える声で聞き返してきた。「私、死んだのでしょうか?」驚いて運転手がミラーで後部座席を確認すると、そこにはもう誰もいなかったという。
 
41才の運転手は、夕方、8月だというのに厚手のコートを着た20代とおぼしき男性客を乗せた。目的地を尋ねたが、黙ったまま、まっすぐ前を指さしている。繰り返し行き先をきくと、「日和山」と言った。日和山は、津波の被害が最もひどかった南浜地区の背後にある山だ。運転手は日和山まで車を走らせたが、到着した時、乗客の姿が消えていたという
 
 幽霊を見たという場所は、津波で完全に消滅してしまった土地が多い。恐らく、その場所が恐怖や不安を呼び起こし、人の心に何かを映し出すのではないか。死者と生者が近い場所において、災害と幽霊の関連性が大いに語られるのは、生者の心の整理がつかないからなのかもしれない。