アミのひとり言

事務所のアイドル犬アミのひとり言です。

特殊詐欺から暴力団締め出し

警察庁によると、2015年に特殊詐欺事件で検挙された容疑者の33%にあたる826人が暴力団関係者だったという。5月に全国1700台のATMから不正引き出しされた18.6億円事件も、一部には暴力団員が絡んでいるようだ。振り込め詐欺暴力団の資金源になっている。末端の出し子を捕まえても、財産を持っていないから被害弁償ができない。手先の子分に金がなくても、その親分に金があれば弁償させることができれば被害者は救済される。民法使用者責任(第715条)を使おうとすると組員と親分の間の「使用関係」の立証の問題があり、容易ではない。もともと暴力団内部の事情など外からはわかりにくいものだし、捕まった子分もなかなかしゃべらない。
 
先月末、東京地裁に訴えた特殊詐欺被害者団体は、「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」(略称「暴力団対策法」)を根拠に、指定暴力団住吉会総裁ら幹部3人に総額2.3億円の損害賠償を請求した。この事件は、20142015年、実体のない再生医療研究開発会社の社債購入を持ち掛けるなどして 全国の高齢者ら約170人から15億円以上の現金を騙し取ったもの。住吉会の3次団体幹部ら33人が詐欺容疑で逮捕され、リーダー格で組長代行の男(42才)が今年3月、懲役10年の実刑判決を受けている。
 
原告側は、住吉会の複数の傘下組織が事件に関与していたことなどを根拠に、「住吉会が威力を利用して財産を侵害した組織的な詐欺」であるとして、トップの責任を問えると判断した。末端組員より資金力の豊富な最高幹部を訴えることで、被害回復の可能性が高まる。暴力団対策法31条の2では、「暴力団の威力を利用して生計の維持、財産の形成若しくは事業の遂行のための資金を得、又は当該資金を得るために必要な地位を得る行為」をして損害が発生したときは、指定暴力団の代表者等が責任を負うとなっている。暴力団の威力を利用して資金を獲得し、その不法行為により損害が発生していれば、自動的に組織のトップに責任を押し付けることができる。使用関係を立証する必要もない。
 
暴力団対策法31条の2ができた背景は1995年に発生した暴力団員による警官射殺事件だ。山口組会津小鉄暴力団の対立抗争中に、京都府警の巡査部長が,会津小鉄組員と誤認され、山口組系組員に射殺された。実行犯は、実刑判決を受けたが、上位者は直属の組長を含めて逮捕されず、被害弁償は一切なかったため、遺族が山口組組長らを被告として,京都地方裁判所総額1.6億円の損害賠償を求めて提訴した。一審の京都地裁では民法使用者責任が否定され,控訴審の大阪高裁では逆転使用者責任が認められた。山口組組長側が上告したが、最高裁は上告棄却として、暴力団トップの責任を認めた。
 
民法使用者責任は、訴える側に使用関係の立証責任があり、使いづらい。この事件を受けて改正された暴力団対策法31条の2は、指定暴力団不法行為により損害が発生したことを立証すれば、親分の責任を問える。今後、部下が振り込め詐欺で稼げば稼ぐほど、その責任は親分にのしかかってくる。そのような最初の裁判がようやく始まったばかりだ。