アミのひとり言

事務所のアイドル犬アミのひとり言です。

「当選おめでとうございます」商法

迷惑メールを消す前にちょっと見てみると「おめでとうございます。XX万円当選しました」となっているのをよく見かける。嘘に決まっているし、下手に相手をすると、とんでもない被害に遭いかねないと、通常は消すだけだが、「500万円当選しました」というメールを送った会社に対して裁判を起こし、和解で100万円を獲得した人物がいる。通常は、この手のメールを餌に、出会い系サイトへの登録を誘導したり、振込みをするために商品の購入実績を作ってほしいと物を買わせたり、少なくとも個人情報くらい入手しようとすることが多く、当然のことながら、当選金は単なる見せかけだけという場合が圧倒的に多い。
 
ところが、音楽雑誌編集者のYさんは、そんな詐欺まがいのサイトを断固として許せないということで、「500万円当選しました」というメールを送ってきた業者を相手取って、「当選金」の支払いを求める民事訴訟を起こしたのだ。相手の会社は資本金200万円の出会い系サイト運営業者、業種は何であれ、民法上、一方当事者が「無償で500万円与える」と意思表示をし、他方当事者が「承諾する」と意思表示をしたら、その時点で当然に無償の贈与契約が成立する。
 
民法549贈与
贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。
 
この場合、メールを送った出会い系サイト業者とメールを受け取ったYさんの間で贈与契約が成立したことになり、その記録はメールに残っているから、書面でなされた贈与契約とみなされる。口頭の贈与契約は撤回することも可能(民法550条)だが、書面でなされた贈与契約は撤回することができない。(民法550条の反対解釈
 
民法550条(書面によらない贈与の撤回
書面によらない贈与は、各当事者が撤回することができる。
但し、履行の終わった部分については、この限りでない。
 
 弁護士に依頼して、最悪、贈与者側(出会い系サイト業者)に資力がないとなったら、弁護士費用の全損になるだけなので、受贈者(Yさん)は、自力で訴状も書き、本人訴訟とした。彼は贈与者側弁護士を相手にたった一人で戦ったのだから素晴らしい。簡易裁判所で、裁判長は被告贈与者代理人弁護士に「和解の意思あるか」と確認したところ、「ある」と回答。続いて、原告受贈者に同じ質問をしたところ、Yさんは「条件次第でYes」と裁判長に伝えた。裁判長に「その条件は?」と問われて、Yさんは「百万円くらい」と言ったので、百万円で和解が成立、本当に百万円を払わせたという。訴訟にかかった費用は収入印紙代3万円と切手代(「予納郵券」という)とYさんの手間暇だけ。これで、インチキ出会い系サイト運営業者をやっつけることができたのだから、我々も一度Yさんに習って、贈与契約の履行を裁判で求めてみようではないか。