アミのひとり言

事務所のアイドル犬アミのひとり言です。

Innovator’s Dilemma

Clayton Christensen というアメリカの学者兼実業家が唱えるInnovator’s Dilemma(技術者のジレンマ)なる説がある。この名前の本は1997年に出版された。当時Eastman Kodak の株価は史上最高値だったからコダックの社長も幹部もクリステンセンの本には目もくれなかったであろう。世の中には破壊的技術(disruptive innovation)というものがある。幌馬車のメーカーにとって最初に米国でできた自動車は超高価であり幌馬車の市場を脅かすことはなかったから自動車そのものは破壊的技術ではなかった。しかし1908年にHenry Ford が大衆車 Ford Model T を発売してこれが大衆が買える値段の自動車であったために最終的に幌馬車の市場を駆逐してしまったのでFord車は破壊的技術であったというのだ。要するに Christensenによれば技術革新は既存の技術を陳腐化してしまうので、新しい技術を生み出した者が既存の技術の持ち主である場合に悩ましい問題に遭遇するという。コダックは既存のフィルム分野でほぼ無数の特許を持っており世の中がフィルムを必要とする限りガリバーのような存在(米国内のフィルム市場占有率90%)であったが、ディジタルカメラが普及しすぎるとInnovator’s Dilemma に陥るのでディジタルカメラには大して力を入れてこなかった。その間に日本などのカメラメーカー、電気メーカーがディジタルカメラを進化させ大衆化させてしまったのでついに1月会社更生法申請(米国破産法Chapter 11)に至った。コダック経営者はディジタル画像はフィルムに比べて品質が劣るので素人しか使わないはずと信じようとしていたふしがあり、しかも例えディジタル画像といえども人々はプリントを欲しがるはずと信じていたのだろう。電子百科事典・Wikipediaが本の百科事典を駆逐し、USBが短期間でfloppy diskを消し去ったようにカメラがディジタル化するとフィルムメーカーがいらなくなるというChristensenの説は巨人コダックの倒産を預言していたように思われる。市場占有率90%のフィルムの利益率が多角経営の他の商品に比べて圧倒的に高かったため、選択と集中でいつまでもフィルムにこだわったためこのような結果になった。強い商品を持つ会社に対するいい教訓になり、まだ強い商品を持たない会社に希望を与える事件だ。