一週間前、中米パナマで開催された第7回米州サミット(Summit of theAmericas)において、ついに歴史的和解が実現した。54年間国交を断絶していた隣国同士、米国・キューバ、が仲直りしたのだ。隣国相互の国境封鎖は、どちらにとっても経済的利益をもたらさない。キューバ側の試算では過去50年の米国による経済封鎖の被害額は$1.126兆(135兆円)というから、キューバにとっての打撃は極端に大きかった。
もともとは、大資本家米国が、隣の小国キューバを食い物にしていたのだが、Fidel Castroが現れて、突然米国資本を国有化したから、米国が反発して小国をいじめた程度だった。Fidel Castroは根っからの共産主義者ではなかったはずだが、彼に手を差し伸べたのは当時の大国ソ連。敵国アメリカFlorida半島までわずか145kmという地の利は、ソ連にとって絶好のミサイル基地になる(予定だった)。かくして、FidelCastroは米国の属国からソ連の属国になる道を選んだ。
そのソ連も崩壊し、ロシアは共産主義でもなくなったし、自国の経済もこのところの原油安で疲弊しており、キューバの面倒を見る余裕はない。キューバは米国により、テロ支援国家の指定を受けていて、米国と取引のある企業はキューバと取引することができない。キューバ経済はますます困窮して、かなり北朝鮮に近い食糧事情だという。2年前に南米出身のローマ法王が実現したことにより、幸運にも救いの神が現れた。法王Franciscoは、米国Obama大統領とキューバRaul Castro議長の直接対話の仲介役を買って出た。双方にとって、神の代理人からの提案は渡りに船だった。捕虜の交換も実現し、テロ支援国家の指定もはずし、経済封鎖を解除して、相互の大使館設立に向けて動き出した。
兄から政権を引き継いだ弟のRaulCastroは間もなく84才、2018年に任期が切れる国家評議会議長を続投しないと宣言しており、彼の後継者は55才のMiguelDiaz-Canel、経歴を見ても芯からの共産主義者ではなさそう。Raul Castroも中国のような市場経済を目指していて、米国と国交が回復し、キューバ政権指導部の世代交代が実現すれば、いつまでも共産主義にこだわることはないと思われる。
米国にとって、過去50数年、どの大統領もできなかったキューバとの国交回復という偉業を成し遂げたObama大統領の功績は、長く米国の歴史に残るであろう。「Obamaは正直だ」と信じたRaulCastroも、キューバの体制を変えた功績で、キューバの歴史に「兄を超えた弟」と評価されるに違いない。米国は、資本主義の他国がキューバ市場に入り込むのを禁止しておきながら、今や自分たちが一番乗りでキューバ市場に進出する。米国にとって経済効果は抜群であり、ソ連時代から蜜月関係にあるロシアの影響力をそぐ絶好のチャンスでもある。米国で犯罪を犯してキューバに逃げ、そこで普通に暮らしている二人の米国人男女がいる。警官殺人犯の女と爆弾製造犯の男二人だが、国交回復すれば犯罪人引渡条約も締結することになるので、Obama大統領は、国外逃亡犯一人当たり$100万の懸賞金も節約できる見通しだ。やはり経済効果抜群だ。