法務省の調査によれば、我が国の国土面積の11%に相当する約410万haの土地の所有関係がはっきりしていない可能性があるとのこと。九州の総面積が368万haだから、九州を上回る広大な面積の土地が所有者不明の可能性があるという。あくまでも推計なので、実際は、変更登記をしていないだけで、所有者が確定している部分もあると思うが、なぜ「所有権絶対」という市民の権利を守るはずの民法が、所有者不明の土地をこんなに増やす結果になったのだろうか。
法務省は、今年になって、全国の土地10万筆を対象にサンプル調査を行ったところ、最後の登記から50年以上経過している土地が22.4%に上ると発表した。90年以上経過した土地も5.6%あり、その中には登記上の所有者の住所が満州国というのもあるという。このような所有者不明の土地は林地、農地のみならず、宅地も多数含まれ、地理的には中都市、中山間地域に限らず大都市にもある。統計上、50年以上変更登記がされていない土地の所有者不明率は60%に上るので、約250万haの土地は、所有者不明につき利用されていないと推測される。
登記は義務ではないため、費用がかかるので、相続の変更登記をしないことがある。登記変更をしなくても何ら罰則がないので、放置して、次の代が相続しても登記の変更はさらに複雑になるからほっておく、ということが繰り返され、現状に至っているのだ。固定資産税を徴収する地方自治体が登記を強制することができればこのような問題は解決できる。複雑な相続案件では素人が自力で変更登記の資料を集めるのは至難の業だから、司法書士に依頼せざるを得ない。複雑な案件であれば司法書士の報酬も高くなり、なかなか登記できないという悪循環がある。
法務省は、今回、来年度予算に約24億円の概算要求をして、所有者不明土地の本格調査を開始する。委託された司法書士などの調査で、法定相続人が特定されれば登記を促し、法定相続人不在であれば国が没収する。所有権絶対の美名のもと、誰にも活用されない土地が多数この国に存在するのは、資源の有効活用の観点から無駄であるだけでなく、公共事業・地域再生の妨げになり、国土保全・環境維持の観点からも悪影響を及ぼすので、ゆくゆくは変更登記を義務化すべきだ。
民法には時効取得という制度があり、所有者不明の土地を勝手に占有して20年経過すれば、占有者の名前で登記ができる(民法第162条)。これには代理占有も認められているので、自治体に認定されたNPO法人が所有者不明の土地を占有し、管理することで時間をかけて土地の所有者になり、最終的に自治体に寄付するという方法も考えられるのではないか。ヤクザがこの制度を利用して土地を取得する前に誰かがやっておかないと、取り返しのつかない事態に発展するだろう。