東京医科大学の入学試験に落ちて浪人していた息子の父親が、文科省科学技術・学術政策局長という地位を生かして、その息子を裏口入学させたとの報道があった。佐野太容疑者(59才)は、文科省の「私立大学研究ブランディング事業」を指定する立場にあり、東京医科大学は2016年度落選していたが翌年2017年度は見事選ばれて3,500万円の補助金を受けたという。大学にとって単なる補助金の額ではなく、文科省の私大研究ブランディング事業の指定をもらうことに宣伝効果があり、喉から手が出るほど絶対にほしい指定だった。
東京医科大学に息子を6年間通わそうとすると2,980万円かかる。年間の授業料などは平均500万円、普通のサラリーマンで出せる金額ではない。サラリーマンが生涯に稼ぐ収入は平均2.5億円(税金等控除後は2億円)、正味の収入の80%以上は生活に使うし、そもそも子どもが医大に入学する時点で生涯の年収を得ているわけではない。大半のサラリーマンの生涯収入が2億~4億の範囲に入る中で、文科省局長であっても私大医学部の費用は普通には払える金額ではない。そこを無理して払ってでも私大医学部に行ってもらって、どのようなご利益があるだろうか。
我が国の私大医学部は全国に31大学あり、毎年約3,500人の学生が入学する。6年間の授業料等の総費用(寄付金含まず)は一番安い国際医療福祉大学(千葉県成田市、2017年新設)の1,910万円から、一番高い川崎医科大学(岡山県倉敷市)の4,727万円だ。しかも、医学部募集の学生数が少なく、ほぼ同じ点数の受験生なら、寄付金の額で合否を決めるという「大学の自治」がまかり通っているようだ。その寄付金は一口1,000万円もあるというから、大金持ちの子弟でなければ私大医学部進学はあり得ない世界だ。
大学医学部を卒業しても医師国家試験という難関試験が待っている。東大医学部卒業でも合格率約90%だから、私大医学部にこれだけ投資しても医者になれない者が一定数いるということだ。昔、Milano駐在時代に森口先生と言われていた医療ブローカーがいたが、彼などは国家試験に受からず、海外で活躍しようとイタリアに渡ってきたのだろう。Milanoの病院に顔が利き、ベッドがないと断られても翌日にはベッドが現れる。直近の国家試験合格率(既卒者も含む)をみると、岩手医科大学(6年間総費用3,530万円)は77%、川崎医科大学は87%と、医学部は出たけれど医者になれない者は結構いる。はした金で私大医学部に入れた親はまだしも、死に物狂いで貯金して医学部に入ってもらって、医者になれずではあまりにも残酷な現実だ。