アミのひとり言

事務所のアイドル犬アミのひとり言です。

シリアの悲劇にクルドの悲願

親子二代に渡って自分達の独裁体制に反対する勢力を弾圧・殺害してきたシリアの大統領Bashar al-Assadは、アラブの春の始まりと言われる昨年3月以降、既に3万人以上(行方不明者を含めて5万人以上か)の自国民を冷酷にも殺害してきた。通常、軍隊・兵器は外国と闘うために所有するものだが、Assadはそれを自分を批判する自国民に向けている。

Assadはイスラム教の中のアラウィー派(Alawite、全人口の12 %)に属しており、支配階級は人口では少数派だ。一方の被支配階級の多数はスンニ派(Sunni、全人口の75 %)、少数派が多数派を支配するには恐怖政治を敷くのが近道で、多数派のスンニ派少数民族クルド人が自由を求めて反Assad運動を始めたのがシリア内戦の発端だ。アラブの春以降、いくつもの反政府集団が勝手に反Assad闘争をして、その集合体を自由シリア軍(Free Syrian Army)という。

しかしアラウィー派スンニ派の争いは同じイスラム教徒同士の争い、同じアラブ人同士の戦いでもある。シリアの人口(約2,200万人)の約9 %を占める200万人のクルド人も自由を求め反Assad闘争を続け、それなりに犠牲者を出してきたが、クルド人にとっての敵はAssadだけではなく、アラウィー派スンニ派も含むいわばアラブ人すべてだ。クルド人オスマン帝国内のクルディスタン(Kurdistan)に住んでいた民族だが、第一次世界大戦オスマン帝国が崩壊してからは自分達の国がなくなり、以来ずっとジプシーのような生活を強いられてきた。

シリアのクルド人は合法的にシリア人と結婚することが認められず、選挙権もない。学校・大学を卒業しても卒業証書を貰えない。公務員等の職業に就くことも認められず、国内で移動の自由もない。あたかも江戸時代の穢多非人並みの人権しか認められていない。

第一次世界大戦後、Kurdistanは主に4カ国に分割され、東西南北はそれぞれイラン・シリア・イラク・トルコに編入された。現在クルド人はトルコに約1,400万人、イランに約700万、イラクに約600万、シリアに約200万、その他世界各地に100-200万人、合計約3,000万人いるといわれている。一定の地域に住みながら独立した祖国を持たない民族としては世界最大の人口だ。

Assad政権はスンニ派主体の自由シリア軍と闘うのに必死で、Kurdistanのクルド人とまで戦っている余裕がない。そのためこの夏までに、クルド人によるKurdistanの自治を認め、クルド人の市民権を認めたので、内線が激しさを増す現在でも、クルド人とAssad政権の戦いは中断している。クルド人はAssad政権を憎むが、その最大の敵である自由シリア軍(主にスンニ派のアラブ人)も信じていない。アラブ人同士の争いの中でクルドの人権と自治権を認めさせ、いつの日かトルコ・イラン・イラククルド同胞とKurdistanという祖国を建設する夢の第一歩となるシリアの自治権獲得は、シリア国民(主にスンニ派)の悲劇あればこそ実現し得たものだ。Assad一族はいずれロシアに逃亡する計画をしていることが報じられているが、Assad後のシリアにおいてAssad政権から勝ち取ったクルドの人権と自治をいかに守るか、クルドの春はまだまだ遠いようだ。