2009年4月に発生したイタリア中部地震(L'Aquila)の被害者遺族ら(死者309人、負傷者1,600人以上)が、専門家のくせに間違った情報を流して被害を拡大させたとして、科学者ら7人を過失致死罪で裁判に訴えた。2012年10月の第一審判決では、全員に求刑4年を上回る禁錮6年の実刑と終身公職追放処分、更に損害賠償及び裁判費用として約8億円の支払いを命じた。これでは、科学者は自分の信ずるところを自由に発言できなくなるとして、被告らは控訴していた。世界中の科学者が、科学者は預言者ではない、今後の予知活動の妨げになる、としてこの判決を批判していた。
11月10日に出た第二審判決では、科学者6人に逆転無罪判決、科学者の意見を基に「大きく揺れれば揺れるほど大きなエネルギーが放出されるので大地震の危険性がゼロに近づく、昨日までの地震でほとんどのエネルギーが放出され、これ以上大きな地震が発生する危険がなくなった」と記者会見で発表したMr. De Bernardinis(市民保護局次長、水害対策技官)だけが禁錮2年(執行猶予付き)の有罪判決となった。
イタリアでは、被害者遺族の感情を反映して、無能な科学者たちを、国立地球物理学火山学研究所(INGV:Istituto Nazionale di Geofisica e Vulcanologia)から排除せよとの強い要望が出ていたが、科学と預言は同一ではなく、正しい地震予知に失敗した科学者を処罰するのは、1633年に異端の地動説を主張したGalileo Galileiに、ローマ教皇庁が終身刑を言い渡したようなもので、正しくないと判断された。唯一有罪となった官僚のMr. De Bernardinisについては、これで危険がなくなったと安易に事実上の安全宣言を出したことで、結果的に被害を拡大させたことに過失があったと判断されたのだ。
しかし、市民保護局次長が有罪になって、その上司、市民保護局長(Guido Bertolaso)の責任が問われないのはなぜか。Bertolaso局長は、群発地震で日常生活に支障をきたしているL'Aquilaの住民をなだめるため、国中の地震専門家をL'Aquilaに集め、現状分析と見通しを検討する会議を開催すれば人々は安心するだろうと考え、会議を招集した責任者だが、記者会見の席では、自分は一切発言しなかった。一方のDe Bernardinis次長は、すべての学者・科学者の総意を基に「心配無用」と発表したので、訴えられ、有罪となった。