昨年4月8日に発覚した山口県阿武町の定額給付金誤振込事件(4,630万円)の犯人、田口翔(25才)に対し、山口地裁は懲役3年、執行猶予5年(これは執行猶予の上限)の判決を言い渡した。コロナで生活が大変な低所得世帯463件に給付する定額給付金10万円を、その1件である男の口座に職員が間違って、全世帯分を振り込むよう銀行に指示したことから発生した事件だ。
町は、すぐに誤りに気付き、謝罪して返還を求めるも、男は「金は既に動かした、もう戻せない」と返還を拒否、ほぼ全額をonline casino決済代行業者の口座に、11日間に、合計34回で振り込んだ。着服男は、全額をonline casinoで使ってしまったと言っていたので、それが本当なら、代金回収は暗礁に乗り上げる筈だった。
しかし、幸運にも、町の代理人弁護士(中山修身氏)の手腕で、全額を決済代行業者から取り戻すことができた。弁護士が使ったのは、国税徴収法第63条(「徴収職員は、債権を差し押えるときは、その全額を差し押えなければならない。」)、まずこの着服男に税金の未納があることを突き止め、その金額がいくらであろうと、その男の債権は全額を差し押さえることができる。たとえ5,000円とか1万円の未納金でも、原則は債権全額の差押えが可能なのだ。
まともな債権者なら、例えば滞納金が1万円とすれば、その金額に見合った債権のみを差し押さえるよう異議申立すると思うが、債権者はonline casino決済代行業者という怪しい業者。わが国ではcasinoは違法賭博であり、認められていない。決済代行業者が異議申立もせず町に弁済した理由は、自分たちの活動が、怪しい取引に関わるものであることを認識しているからに相違ない。既に警察も動いて、調べられると、4,630万円着服男以外の顧客リストもすべて警察にばれることになり、ややこしい問題になるので、その前に犯罪収益金は返済してしまいたかったのだろう。
判決は、巨額着服男の電子計算機使用詐欺罪(刑法246-2条、最高刑懲役10年)の成立を認め、誤振込であることを銀行に告知する義務に違反しており、正当な権利行使ではなかったと指摘した。また、被害額が多額で、online casinoで遊ぶための犯行に酌むべき点は一切なく、阿武町職員の働きかけにも応じず、法規範を軽視する態度は実刑に処すべき事案と結論づけた。
しかし、幸いにも、阿武町代理人弁護士の機転により、誤振込金額は全額町に戻ってきた上に、民事裁判で、弁護士費用など町の損害額485万円の請求に対し、詐欺男は347万円支払って和解が成立しているので、懲役3年に対し、情状酌量の上、執行猶予5年を付けたということだ。問題の発端が、町の担当者の落ち度にあった点も考慮されたのであろう。
それにしても、誤振込金を、浅はかにもonline casinoで使い遊ぼうと考えるのは、24才(事件当時)の大人にしては、余りにも幼稚すぎる。この詐欺男の弁護士は、それでも、無罪になるべきだから控訴すると言っており、善悪を判断できない弁護士も、同様に幼稚すぎるのではないか。