アミのひとり言

事務所のアイドル犬アミのひとり言です。

スイスの紙幣ビジネス

スイスを旅行してすぐに気付くことはなんと豊かな生活をしている国民であるかということ。スイスが人口700万人強であれだけ贅沢な生活ができるのもスイスフラン産業による。1980年代でスイスに銀行の本支店は 11,000軒あった。当時人口は600万強。600人弱に1行づつの銀行がある。一家族4人として、150世帯ごとに銀行1行とはおかしい。イタリアとスイスの国境を越えた最初の小さなスイスの町はキアッソ(Chiasso)、この小さな町に銀行は20-30行ほどあった。スイス人だけを相手にして成り立つ数ではない。確かにイタリア人はかなりキアッソの銀行を利用していた。インフレの激しかったイタリアの銀行にイタリアの通貨リラで預けるよりも、金利はつかないけれどしっかりしたスイスフランに換えてスイスに預けるほうがインフレ対策上も賢明だった。 スイスフラン紙幣は定期的に新しい紙幣を発行し、古い紙幣を失効させている。過去100年ほどで5回ほど新紙幣を発行しては流通を停止して、現在流通している紙幣は2000年発行の第6番目の紙幣だそうだ。それまで流通していた紙幣は1975年発行(2000年流通停止)で、2020年には失効する手はずになっている。知らない外国人が大切に古いスイスフラン紙幣をしまっていたらいつの間にか失効していて価値ゼロになってしまう。日本では聖徳太子の千円札、板垣退助の百円札など戦後発行された紙幣はもとより、明治時代の一円札まで銀行に持ち込めば今でも合法的に使用できるが、スイスフラン紙幣は割と短期間に価値がゼロになる。失効前に銀行に持ち込まれない紙幣は実質的には国家の収入になるからますますスイスは裕福になる。この世でスイスフラン製造業ほど効率のよい利益の上がる商売はない。シンドラーのエレベーターを作って売ったところで利益率50%以上は絶対にない。牛を育ててチーズやチョコレートを作って売ったところで人件費も結構かかっているからそんなに儲かるものではない。スイス特産の時計とかオルゴールとか色々あるけれどブランド品であればあるほど広告宣伝費もかかるし暴利を出すことはできないだろう。ところがスイスフラン紙幣は原価がほんのわずかだ。ドイツの技術といわれる特殊な紙に印刷代と印刷機減価償却費+わずかな人件費。一番大きな紙幣で千フラン札があるから、ざっと邦貨8.5万円として、その原価は 0.1% 以下の筈。荒利率 99.9% 以上の商品だ。番号口座はさておき、記名式の非居住者(外国人名義)の口座には金利が付かない。理論的には1億円を50年間3%(貿易で使われる現行輸入ユーザンス金利)で複利運用すると4億円超になる。その場合、元本が1億円だから金利相当分は3億円となり、これがスイス銀行の利益になる。印刷直後の荒利率が99.9%であっても、番号口座の1億円が50年後に没収された時の荒利率は実質的に400%にもなる。スイスは絶対にEUに入ってユーロに通貨を替えることはないだろう。エレベーターの製造をやめても、時計の製造を中止しても、オルゴールを作るのをやめてもスイスフラン紙幣の印刷は続けなければ、人口700万強の小国があれほど優雅な生活は維持できない。どうりでベンツを持っているスイス人が非常に多いわけだ。17-18世紀のスイスは貧乏で子どもを傭兵に出して残りの家族が生き延びたという話を聞いたことがある。そこからスイスフラン産業が生まれたのだから歴史の皮肉としか思えない。