アミのひとり言

事務所のアイドル犬アミのひとり言です。

もうひとつの極小国リヒテンシュタイン

中部ヨーロッパ・アルプス山中、スイスとオーストリアに挟まれた人口35,000の国を所有している人がいる。リヒテンシュタイン家のハンス・アダム二世(国家元首)だ。この人物はヨーロッパの君主の中で所有資産が最大(2位はモナコ国王)、リヒテンシュタイン公国(小豆島よりやや小さく160km2)の何倍もの面積にもなる私有地を国外に持ち、資金は同家が経営するリヒテンシュタイン銀行(Liechtenstein Global Trust)が管理していて、その資産は50億ドル(4,000億円)を超えるとされている。従い、この君主大権を持つ国家元首は国庫から一切の歳費を受け取っていない。ばれるまで母親からの贈与を知らなかったことにして脱税し、首になるまで国庫から歳費をもらい続けた我が国の前首相とは生まれが違うようだ。歴史上12世紀頃のリヒテンシュタイン家は下級貴族だったようだが、その後神聖ローマ帝国(現ドイツ)の領主となりハプスブルク家重臣として神聖ローマ帝国諸侯に任命され1719年正式に「リヒテンシュタイン公国」国王として認められたようだ。その後、親会社たる神聖ローマ帝国が解散したので、一時期ライン同盟とかドイツ連邦に参加したこともあるようだが実質的にはこの約300年間独立国の形態を続けている。この大資産家国家元首様は「子供手当」を出すだけでなく自国民全員の所得税相続税贈与税などの直接税を全て免除している。外国人にとっても税金が低いためこの国に事務所を持つ外国法人の数は人口より多いといわれ、現にこれら外国法人から徴収する法人税が国庫収入の40%にもなっているという。通常のペーパーカンパニーは適当な住所と電話番号が記されているだけだから、調べられると実在しないことがばれて本国で税金の追徴がなされるが、リヒテンシュタインには本物の事務所があり秘書がいるからペーパーカンパニーともいえない。典型的なものは一つのやや広い事務所に秘書が一人いるだけだが、その人は20社ほどの外国企業の秘書として電話対応もする。税務署は疑わしいと思うとまず電話して誰かが応答すれば事務所があると思ってくれるはずだから、電話があると秘書は「Hello」と答える。次に「ABC社ですか」と問われれば「Yes」と応え、「BCD社ですか」と問われても「Yes」と応える。ABC社の担当者もBCD社の担当者も普通は「出張中」(He is on a business trip.)と説明されるらしい。これで電話だけで事務所の有無を調査しようとする税務署は信用させることができる。アメリカの税務署吏員が本当にその事務所を訪ねてペーパーカンパニーであることを見破ろうとしたが、きれいな秘書に「私はCDE社の秘書です」と言われて、会社の実態がないと断定できなかったという話も聞く。35,000の幽霊会社に対して、一人の秘書が平均20社を担当しているとすればこれで1,750人分の秘書の雇用が発生する。給与水準は高いスイス並みだ。もともと国民はアンドラと同じく伝統的に農業と牧畜で生計を立てていたようだが、その後スイスに倣って金融立国「タックス・ヘイブン」として知られるようになったのだそうだ。この公国はOECDにより「非協力的租税回避地」と指定され、有害税制だと糾弾されているが自国の銀行の守秘義務が優先するとの立場を崩していない。かくして国民一人当たりのGDPは日本の3.8万ドルに対して11万ドルとダントツに裕福な暮らしをしている。貧困がなければ犯罪もなく警察の必要もないから、主に交通を担当する警察官が全国で100人ほどいるだけだという。自国の軍隊もないので1919年以降は隣りのスイスが国防を担当してくれている。(念のため、日本の税務当局は実態を把握していて、リヒテンシュタインに送金した口銭はいくら真顔で説明しても正当な経費と認めてくれません。)