アミのひとり言

事務所のアイドル犬アミのひとり言です。

チップの悪習

米国を旅行して一番不便なのはチップの習慣だ。レストランのウエイトレスなど、チップがある職種に従事する者は最低賃金(州により時給$7.50~$9.00位が多い)すらもらっていない場合が多く、彼らにとってチップのありなしは死活問題になる。一部の州には法定の最低賃金支払いを義務付けている州もあるようだが、ニューヨークなどほとんどの州では、時給$2.00~$4.00ほどしかもらっておらず、チップ収入がなければ家賃も水道光熱費も払えないという。チップは、サービスの値段の一部であり、いわば税抜き値段が表示されていると了解すべきかもしれない。

今年1月にSt. Louis(Missouri州)のレストランApplebee’sに地元の教会の牧師一行が礼拝後夕食に訪れた。子ども5人を含む計10名で食事代$34.93(約3,500円)、請求書にはチップ18%(を足して清算してください)と書いてあった。牧師は請求書の余白に手書きで「私は神に10%捧げるだけなのに、なぜあなたに18%あげなければならないのか?(I give God 10% — why do you get 18?)」と記し、Pastor Alois Bell(ベル牧師)とサインして、チップを払わず店を出たという。チップをもらい損なったウエイトレス(Chelsea Welch)はこの牧師に腹を立て、牧師手書きのメモ付請求書のコピーをとってinternetの投稿ページに載せたから、全米から意見が寄せられ、件の牧師の知るところとなり、名誉を傷つけられたとレストランの所有者が訴えられた。チップを払わない客でもお客様は神様、と考える米国で、このウエイトレスは解雇され、牧師とウエイトレスのどちらが正しいのか激しい議論が沸き起こった。

従業員の給料をまともに払わずに客にチップとして払わせるのは間違っているという意見。労働の対価は、原則、時間に比例すべきで、一本$50のワインと$500のワインを注文するかでウエイトレスの収入が10倍違うというのは不正義だと主張する。それに対して、メニューにチップは18%とはっきり書いてあるのだから、払いたくなければそのレストランで食べるべきでないという意見。ハンバーガーショップのようにチップのいらない店もあるのだから、牧師一行はその手の店に行くべきだったと主張する。

僕もその昔、出張で訪れたニューヨークのホテルで、ベルボーイがスーツケースを部屋に運んでくれて、$10紙幣より小さいお金が50 centsしかなかったので、50 centsをチップにあげたところ、「タバコでも買いな(Buy yourself a cigarette.)」と言われて付き返された経験がある。彼らも職業に誇りを持っていて、一定の金額以下なら受け取らないという誇りがあるのだと思った。それがいくらであるべきか旅行者にはわかりにくいし、分かったところでその金額の紙幣を持ちあわせていないと、実際のところやりにくいということもある。

4月にはHockessin(Delaware州)のレストランPadiの支配人Aaron Kwanがチップの少ない客の領収書コピーをinternetの投稿ページに載せ、「ドケチ(cheapass)」「田舎者(hillbillies)」などと紹介したとして、解雇されたところだ。生活がかかっているからチップはもらいたし、でも商品代金のように強制的に取れないのが悩ましいところだ。