アミのひとり言

事務所のアイドル犬アミのひとり言です。

そして兄になる

今年のカンヌ国際映画祭審査員賞を受賞した「そして父になる」という話題の映画がある。6年間育てた一人息子が、産院からの突然の連絡で、出生時に新生児の取り違えが起きていたというあらすじだそうだ。単なる作り話かと思えば、実際に沖縄県で42年前に起こった赤ちゃん取り違え事件を基にしているとのこと。

稲福家の6才の娘さんが幼稚園で受けた健康診断の結果に、両親からはあり得ない血液型が記されていた。B型の父とO型の母からA型の子供が生まれたことになっている。産院に問い合わせて調べた結果、当時の看護婦の手違いにより、稲福家の赤ちゃんは島袋家の赤ちゃんと取り違えられていたことが判明した。昭和46年(1971年)から6年間、稲福家と島袋家は、共に、他人の子をわが子と思って大切に育ててきた。血の絆がないと判明して、それまで育てた「わが子」を手放す親の苦悩も計り知れない。しかし、60年たって、赤ちゃん取り違えでしたと認めた産院がある。

東京・墨田区にある賛育会病院、昭和28年(1953年)3月30日午後7時17分に生まれた男児(Aさん)と13分後の7時30分に生まれた男児(Bさん)が取り違えられていたことが、最近確定した。このお二人、現在60才。Aさんを引取った家庭は、父親が早々に亡くなり母子家庭、母親は生活保護をもらって男の子3人を育てたという(三男は早死)。経済的余裕はなく、この四男Aさんは中卒で町工場務めしながら定時制高に通うが、生涯独身、トラックの運転手。片やBさんは大変裕福な家庭に長男として引き取られ、幼少のころから大学進学まで家庭教師を付けてもらい、現在は(家業と思われるが)不動産会社の社長業、子供二人あり。Bさんには、似ていない弟が3人いる。Aさんも兄2人とは違い、父母のどちらにも似ていないと母に言われていたそうだ。

しかし、本当の家庭が分かっても、どちらも両親は既に他界している。Aさんと裕福な家庭の弟3人(原告)が病院側に損害賠償を求めて訴えを起こし、東京地判平25.11.26は「本来、経済的に不自由のない環境で育てられるはずが、貧しい家庭環境に身を置かざるを得なかった」と、Aさんに3,000万円の賠償と、原告一人当たり200万円の慰謝料、合計3,800万円の支払いを命じた。

DNA鑑定で本当の親・兄弟が分かったAさんは、今年6月、本当の弟3人と同じ戸籍に変更され、それまでの四男から長男になった。文字通り「そして兄になる。」病院の間違いで別の人生を余儀なくされたAさんだが、60年付き合った、血縁関係のない「兄」の介護をしながら、血の繋がった弟たちと、失われた60年を埋め合わせようとしている。運命のいたずらに翻弄されたBさんも、Aさんと同じく被害者である。病院は謝罪を拒否しているそうだ。