アミのひとり言

事務所のアイドル犬アミのひとり言です。

死刑台から5人目の生還者

誤認逮捕から48年、第一審の死刑判決から46年、そして最高裁で死刑が確定してから34年、無理やり犯人に仕立て上げられた元プロボクサー袴田巌さん(78才)が、先週、48年ぶりに刑務所から釈放された。1966年、静岡県清水市で起きた一家4人強盗殺人事件の犯人にでっち上げられ、憲法で禁止されている拷問に耐えかねて自白したのが運のつき、そのままずるずると刑事・検察の筋書き通り「犯人」にされ、裁判官も他人ごとだから真面目に審議しなかったのか、行司の差し違え程度の間違いではすまされない。

静岡地裁は第二次再審請求審で、「衣類のDNA鑑定結果が無罪を言い渡すべき明らかな証拠に該当する」と判断、死刑判決の前提となった物的証拠が検察による捏造と判明した。一家4人殺人の犯人も見つけられないでは警察のメンツも立たず、捜査の手柄として白羽の矢が当たったのが、運悪く袴田さんだったが、DNA鑑定の精度が今のように向上していなかったら、袴田さんは危く国家権力に殺されるところだった。一応「犯人」を確保してあるから、その後「真犯人」探しもしていないので、真犯人の完全犯罪に警察・検察・裁判所が一致協力して貢献したという結果になった。

最高裁で死刑確定後、判決の基礎となった証拠が間違っていたとして再審請求、無罪放免になった「元死刑囚」は、袴田さんの他に4人いる。1948年熊本県の祈祷師夫婦殺人事件の犯人とされた免田栄さん(現在88才)、1954年静岡県島田市女児誘拐殺人事件の犯人とされた赤堀政夫さん(現在85才)、1950年香川県財田村強盗殺人事件の犯人とされた谷口繁義さん(2005年、74才で死亡)、そして1955年宮城県松山町一家4人殺人放火事件の犯人とされた斎藤幸夫さん(2006年、75才で死亡)だ。

これらの5人は28年半~48年半にわたり一貫して無実を主張してきたものの、取り調べの拷問に耐えかねて嘘の自白をし、再審で警察による証拠捏造・偽造・隠滅などがやっと証明された。19才~30才の時に逮捕され、53才~78才まで刑務所暮らしを余儀なくされたのみならず、死刑執行といういつ迫ってくるかわからない恐怖におののきながら、独房で生きる苦しみは想像を絶する。

死刑台から生還した一人、赤堀政夫さん(85才)が収監されていた刑務所で、ある朝、約10人の刑務官の足音が自分の独房の前で止まったという。ついに絞首台かと、腰は砕け、頭が真っ白になった瞬間、扉が開き、両腕を引っ張られ、房から出されようとした。その時、別の刑務官が鋭い声で「違う、隣だ」と叫ぶと、隣の房の死刑囚が連れて行かれた。正に危機一髪の最高の恐怖を経験したと語っている。現代日本の残酷物語だ。