金正恩(北朝鮮第1書記)は、自分にたてつく者、態度が悪い者、気に入らない者は粛清と称して、処刑する癖があるようだ。このようにして処刑された人は2012年3人、2013年30人、2014年31人、2015年4月までで8人、合計72名にも上る。2013年12月に、叔父であり、金正恩の後見人でもあった張成沢(チャン・ソンテク、金正日の妹の夫、当時67才)を銃殺刑にし、死体は火炎放射器で消したという。張成沢の関係者は最終的に合計11人が処刑された。この叔父は、国家転覆の陰謀行為を企てた罪で死刑になったと発表されていたが、どうやら金正恩暗殺を企てた首謀者とみなされていた節があると、韓国紙「東亜日報」(2014.11.4)が報道した。この第一金正恩暗殺未遂事件の首謀者については異説もある。金慶玉(党組織指導部第1副部長)が首謀者だったというものだが、この人物も2014年10月に死刑執行されている。
ところが、その後、第二金正恩暗殺未遂事件も発覚する。2013年5月、金正恩の乗った車列に大型車が突っ込み、危うく命を落としかけたというのだ。どうみても不意の交通事故にみせかけた暗殺未遂事件だが、運よく機転の利く女性交通警察官(当時22才)が、英雄的犠牲精神を発揮して、革命の首脳部(金正恩を指す)を決死の覚悟で守ったという。この時、北朝鮮の公式メディアは、彼女について「不意の状況で、革命の首脳部を決死の覚悟で守った英雄」と称賛する報道を繰り返したが、具体的にどんな状況だったのかは一切報じられていない。
そして、平壌市を管轄する警察機関、市人民保安局の交通部門に勤務していたこの女性警官には、北朝鮮で最高の栄誉とされる「共和国英雄」の称号が授与された。このような若い警官に最高クラスの称号が贈られるのは極めて異例であり、明らかに暗殺されそうになった金正恩を救った功績としか考えられないのだそうだ。そもそも、最優先で通される金正恩の車が、他でもない首都の平壌で事故に遭遇するなどあり得ない話で、もうここまで来ると、正恩派と反正恩派の勢力による内部の権力闘争が、かなり激しくなっていると判断せざるを得ない。
この第二金正恩暗殺未遂事件が起こった2013年5月、中国の4大国有銀行はすべて、北朝鮮の金融機関に対し、口座閉鎖や取引停止の措置を取っため、北朝鮮は中国からの資金ルートを失い、今でもその状態は続いている。中国が信頼していた張成沢が金正恩に処刑され、北朝鮮ルートを失った中国が、この第二金正恩暗殺未遂事件に関わっているとの見方もある。中朝関係はすっかり冷え込み、中国は金正恩政権を倒す方向で動いているというのだ。