衆議院憲法審査会で自民党が推薦した参考人、早大大学院・長谷部恭男教授ら3人の憲法学者全員が「憲法違反」と明言した、集団的自衛権行使容認を含む安全保障関連法案が参議院でも成立した。我が国の憲法は、自衛隊すら憲法違反ではないかと思わせるような立派な平和憲法なのに、他国を防衛するための軍隊派遣を認める「集団的自衛権」が憲法で容認されるはずがない。これを認めるには憲法9条改正が必要なことは誰の目にも明らかだ。しかし、その手続きは両議院の2/3の発議をもって国民投票で過半数の同意が必要だ。改正のハードルが高い現行憲法がいいのか悪いのかは別問題として、手続き上はこのように定めてあり、すべての法律に優先する最上位の決まりが憲法なのだから仕方がない。
自民党は当初、佐藤幸治京大名誉教授に参考人出席を要請していたが、本人に断られていた。この憲法学者も、日本の平和憲法から集団的自衛権を導き出すのは不可能との意見の持ち主だ。我が国の憲法学者のほとんどは、集団的自衛権が違憲であると発言している。にもかかわらず、安倍政権が憲法を改正せずに集団的自衛権を認めるには、第9条の超法規的拡大解釈・拡張解釈をするしかなかった。歴代の内閣法制局長官も、憲法解釈上、集団的自衛権の行使は認められていないと口をそろえて言う。しかし、2013年、現首相は、内閣法制局長官のポストに自分の言いなりになる人を外務省から連れてきて、法の番人を政権の補佐役にすり替えた。
今回の安全保障法の原点は、2012年9月、我が国が尖閣諸島を国有化した後、同年12月安倍政権が誕生した時にさかのぼる。中国の軍事力の急拡大は尋常ではなく、自衛隊の力で尖閣を守ることなどできるものではない。既に世界の警察官としての米国は、Obama政権になって国防費削減を毎年継続し、offshore rebalancingと称して、従来の国防費の一部を同盟国に求める方針を打ち立てていた。昨年4月国賓として来日したObama大統領は、安倍首相との間で、近い将来の米軍と自衛隊の一体化を求めたはずで、衆議院の絶対多数を背景に、首相が、集団的自衛権を約束したものと思われる。さもなくば、米大統領が軽々しく「尖閣諸島は米軍が防衛する」と発言しなかったはずだ。今年4月、彼は米議会に招待され上下両院議員の前で、米国のrebalance政策を支持する演説をした。この夏までに安保法制を整備し、日米軍の協力関係を実現すると公約したのだ。