アミのひとり言

事務所のアイドル犬アミのひとり言です。

ゾウが癌にならないわけ

先日、Journal of the American Medical Association(米医師会の雑誌)に掲載された研究論文により、なぜ人間の100倍もの細胞を持つゾウが、癌で死ぬ確率が低いかが明らかになった。この長年の謎が解けたことで、今度は、人間の癌を制御する技術の確立に向けた研究が本格化する。人間の細胞は約30兆個と言われているが、ゾウの細胞は約3,000兆個もある。これだけ細胞が多いと、ゾウが癌になるリスクは人間よりはるかに高いと考えられるのだが、実はゾウが癌になることはほとんどない。この謎を解き明かしたのがユタ大学医学部のJoshua Schiffman医師たちだ。
 
人間の細胞約30兆個の中には3-4億個の癌細胞が含まれる。その一つが刺激を受けることにより、突然変異を起こして、際限なく異常分裂・増殖すると、悪性腫瘍となる。正常な細胞より活力旺盛なので、大量の栄養と酸素を消費する。この悪性癌細胞は自分の為に新しく血管も引き、そこに血液を通して栄養・酸素を独占的に吸収するので、他の仲間の癌細胞をも殺す。腫瘍の形成を抑制するタンパク質はp53という種類だが、通常、人間にはこのp53を組み込んだ遺伝子が2個あり、普通はこの2個の遺伝子が悪性腫瘍を抑え込む。抑え込みきれなくなった状態が癌だ。家族性に癌を多発する遺伝子病(リ・フラウメニ症候群、Li-Fraumeni Syndrome)では、このp53タンパク質を組み込んだ遺伝子が1個しかないことがわかっている。
 
ところが、ゾウにはこのp53タンパク質を組み込んだ遺伝子が40個もある。この40個の遺伝子が活躍することにより、巨象がめったに癌にかからないということを突き止めた。論理的に考えると、人間の100倍もの細胞を持つゾウは、途方もない数の癌を発症するはずで、実際には、高い癌リスクにより今頃は絶滅しているはずなのだそうだ。しかし、ゾウの体が進化の過程で、腫瘍の形成を阻止する遺伝子を40個も作成することにより、癌にならない体質を作り上げたと分析している。現実にゾウの一生50-70年のうちで癌にかかるものはほとんどない。人間が癌で死亡する確率は25-30%。人間の遺伝子を操作してp53タンパク質を組み込んだ遺伝子を増やすことにより、癌をかなりの確率で制御できることがわかった。抗癌治療法の開発に弾みがつく。
 

今回の研究で、ゾウには、癌化する危険性がある損傷した細胞を殺傷するための、より攻撃的な体内メカニズムが生まれつき備わっていることも判明した。ゾウの細胞では、この活性が健康な人間の細胞の2倍になっており、家族性癌の人間の細胞に比べて5倍という。人気サーカス団が運営するゾウ保護センター(Ringling Brothers Center for ElephantConservation)の専門家と連携した今回のゾウの天然抗癌体質研究で、人類よりはるかに長い期間生き抜いたゾウの仕組みから、我々人間が学ぶ点が多々あることが判明した。我々の先祖と言われるhomo sapiensが地上に現れたのは約100万年前、それに比べてゾウの先祖が地上に現れたのは約6,000万年前だという。長生きする生物はそれなりに長生きの知恵も仕組みも備えている。人間は謙虚に他の生物から学ぶことが大切だ。ゾウは人間が現れるずっと前から癌を克服してきた動物ともいえる。ゾウさんを研究することが、人間の抗癌治療法開発の最短距離なのだそうだ。