アミのひとり言

事務所のアイドル犬アミのひとり言です。

アトピーに朗報

アトピー性皮膚炎で困っている人は10人に一人くらいいると言われる。子どもの頃アトピーでも、小学校に上がる頃に自然に治ったという人もいるが、一生治らず苦労している人もたくさんいる。僕は仕事上の付き合いのあったフジボウの担当者から、キトポリィという繊維がアトピーに効果があると知らされて、実際にアメリカに調査に行ったことがある。
 
アメリカのアトピー患者も、統計上、日本と同じほぼ10人に一人くらいだ。その1/3は中程度から重症の症状という。これらに人たちにとって、アトピーは単に生活の質が損なわれるなんて生半可な問題ではない。子どもは不登校になり、大人も外出できず寝たきりにもなる。全米アトピー患者の組織がいくつかあるようだが、その一つの代表者の女性と会った時、30代ほどの女性ときいていたのに握手した手は70代のおばあさんのようであった印象が残っている。みんな、ステロイド薬の副作用からいろんな民間療法を探していて、キトポリィの実験にもすぐに協力してくれた。
 
キトポリィは、カニの殻に含まれるキトサンを配合したポリノジック繊維で、これで作った肌着、靴下、手袋など、患部に接触しているところの症状が改善する効果がある。現に、実験ではかなりいい結果が出たが、アトピーそのものを治療するものではない。しかも患部に接触している部分しか改善しない。ところが、110日発表された九州大学の研究グループ(福井宣規教授、古江増隆教授など)の論文で、やっと今まで、誰もわからなかったアトピー発生の仕組み、原因物質が特定された。これは根治治療に結び付く新薬の開発の第一歩であり、全世界のアトピー患者にとって福音だ。
 
痒みの原因物質IL-31interleukin 31)が、皮膚の炎症を引き起こし、痒みの原因になっていることまでは知られていたが、IL-31の産生過程を九大グループが見事解明したのだ。IL-31はリンパ球の一種のヘルパーT細胞で作られる。ヘルパーT細胞の中のEPAS1 (Endothelial PAS #1)というたんぱく質が、SP1という分子と協調して、IL-31の遺伝子発現を誘導することを発見した。EPAS1は細胞質から核に移行して機能するが、健常者の皮膚にはDOCK8 (Dedicator ofcytokinesis 8)という遺伝子があり、これがMST1(macrophage-stimulating 1)という分子を介して、EPAS1の核への移行を抑制する。DOCK8を欠損した皮膚の細胞では、EPAS1の核移行が進行し、IL-31の産生誘導が起こり、アトピー症状が極端に悪化する。
 
ようやく、アトピー皮膚炎の原因物質IL-31産生の仕組みが解明できたので、あとは、EPAS1の働きを抑える物質を見つければ、アトピー性皮膚炎の根治治療薬を作ることができる。これからどれほどの期間が必要か予測はできないものの、研究者にとっては射程圏内に入っている問題であり、数年以内にアトピー性皮膚炎で苦しむ人はいなくなるのではないか。新年早々明るいニュースだ。(米国ではPfizer製のEucrisaという新薬がFDAの認可を得て年末に発売開始、これは軽度から中程度のアトピー4週間で大幅に改善するというここ10年来の画期的塗り薬だそうだが、根治治療薬ではない。)