アミのひとり言

事務所のアイドル犬アミのひとり言です。

百薬の長は癌の原因

英国には、今年こそアルコールをやめる、と新年の決意をする人が多いのだそうだ。やはり寒い国だから体の中から温める必要があり、たくさん飲酒する習慣になるのだろう。しかし、日本では、適量の飲酒は健康に良く長生きの元と厚労省も発表している。大量のアルコール摂取が健康に悪いという説に異論を唱える者はいない。しかし、少量のアルコール摂取が体にいいという証拠もない。あるのは統計だけ。日本では、非飲酒者と少量飲酒者を長期間観察して、少量飲酒者の方が心血管疾患による死亡リスクや総死亡リスクが低いとの統計がある。特に男性においては、少量飲酒者の癌のリスクが低いとなっている。
ところが、正月に発表された英国Cambridge大学教授Ketan Patel氏率いるチームの研究発表では、少量のアルコールでも摂取すると癌のリスクを高める、従い安全な飲酒量などないという結論だ。もちろんアルコール摂取量が多ければ多いほど癌になる確率が高く、少ないほどその確率も少ない。アルコールを分解する過程でアセトアルデヒドAcetaldehyde)が生成され、これがDNAを損傷して癌になることが、ネズミの実験で証明されたという。
ネズミにエタノールを投与したところ、造血幹細胞のDNA二重鎖を切断して、細胞内のDNA配列が元に戻らないほど壊された。すなわち、アルコールがDNA損傷リスクを高め、それが原因で癌になるのだ。しかし、人間もネズミもアルコールに対する自己防衛機能を備えている。一つはアセトアルデヒド脱水素(acetaldehyde dehydrogenases = ALDH酵素、これが有害なacetaldehydeを酢酸(acetate)に分解し、細胞のエネルギー源に変える。この酵素DNAの損傷を防いでくれる。もう一つはDNAの修復機能。ALDH酵素が充分でなかったり欠陥があったりする人、及び、DNAの修復機能がうまく働かない人は、少量のアルコールを摂取するだけでもDNAを損傷して癌になるリスクが非常に高い。口腔癌、咽頭癌、食道癌、乳癌、肝臓癌、大腸癌などになりやすい。だからアルコールは飲まないほうがいいという結論だ。
この研究論文とは別の飲酒と死亡率に関する研究発表がある。日米で行われた疫学的研究に基づく「適量飲酒による冠動脈心疾患の予防効果」によると、適度の飲酒は生存期間を3%伸ばし、男性の冠動脈心疾患の死亡率を4%引き下げる。また、飲酒はコレステロールの酸化変性を抑制し、虚血性心疾患を予防するので、適量の飲酒が死亡率を下げる。飲酒で心臓病での急死や卒中リスクが低くなる、女性ホルモンのエストロゲン値を高め骨粗しょう症のリスクが低減する、赤ワインは心臓病の発作を30%減少し、胃潰瘍の原因となるピロリ菌を除去する働きがある、などといった知見もある。それに、認知症の発症リスクが適量の飲酒者の場合、非飲酒者よりも20-40%低いという欧米の報告もある。
人間の死因は100%癌とは限っていないので、断酒をして癌のリスクを下げたところで、適量の飲酒による利点が失われるようなら、無理して断酒をする必要もない。いずれ死ぬのだし、何で死ぬのか決まってもいないのだから、ほどほどに好きなだけ酒を飲むのが一番いいということだろう。