アミのひとり言

事務所のアイドル犬アミのひとり言です。

ピョートル大帝を夢見るプーチン

ピョートル大帝1672-1725)といえば、初代ロシア帝国皇帝、彼の時代から300年にわたってロシアの領土は拡大し続けた。ソ連が崩壊して、その領土は15の国に分割され、元の木阿弥に戻る。ロシア共和国は15の中の最大の国だが、彼らの頭の中では、残念ながら300年前の領土に戻ってしまったということになる。執務室にピョートル大帝肖像画を飾っているプーチンは、自分をピョートル大帝に重ね合わせている節がある。
 
2000年にロシア共和国大統領として引き継いだ領土を、昨年はクリミア半島に広げた。ウクライナの領土を実質的軍事力により強奪したのだ。欧米各国は、このロシアの蛮行に抗議して、経済制裁を課した。続いて、あわよくばウクライナ東部もロシアに取り込もうと、上空を飛ぶ飛行機を敵の戦闘機と間違って撃墜したところ、オランダ人観光客が多数乗るマレーシアの旅客機だった。親露派武装勢力がロシア製ミサイルで撃ち落としたとの検証結果が、間もなく、オランダ中心の国際調査委員会によって出される予定で、そこにロシア部隊が関与していたとされると、ロシアに対する避難が更に強くなり、追加の経済制裁となる可能性がある。
 
欧米の経済制裁で疲弊したロシア経済に追い打ちをかけたのが、原油価格の暴落だ。米国のシェールガス大増産と世界的需要減から、昨年初まで$100/barrel前後だった原油価格は$40-45/barrel程度。国家歳入の半分を石油・ガスで賄うロシアにとって、にっくき米国のシェールガス増産による相場下落は大きな打撃だ。国家予算は$100/barrelで作ってあるから、現状のままではマイナス4-5%の経済成長を意味する。保有外貨も激減しており、ルーブル安でインフレも進行、同時に公務員給与・年金は減額しているから国民の生活は苦しい。更に原油相場が下落して$20/barrelにでもなろうものなら、ロシアは債務不履行に陥るだろう。
 
その前に手を打とうと、プーチンはついにシリア空爆を始めた。中東の地政学リスクが高まれば、ドルが上がり原油が上がると言われるからだ。ロシアはシリアに長期借款で武器を供与していて、ほとんどはまだ返済されていない。アサド政権が倒れたら次の政権は必ず踏み倒すだろう。しかも、シリアには、旧ソ連圏以外で唯一のロシア海軍基地がある。アサドがつぶれたら、この特権も画餅に帰す。プーチンによるシリア空爆という軍事介入は、問題解決ではなく、戦争を長引かせ、アサド政権を延命させるのが真の目的だ。もちろんISのみならず、米国が支援している反政府勢力をも狙って空爆を行っている。米国はプーチン政権を転覆させ、政権交代を画策しているとプーチンは思っているから、米国の支援する勢力をやっつける大義名分はある。
 
同時に、世界の耳目をクリミア半島ウクライナ東部からシリアに向かわせることにより、プーチンは静かにウクライナ東部からの撤退を考えているふしがある。1年半軍事介入しても領土奪還の見通しは立たず、単に軍事費がかさむだけ、ここはピョートル大帝には申し訳ないが、領土拡大は一時的に諦めて、ロシアの債務不履行を回避するのが当面の目標だろう。後世の歴史家が「プーチン大帝」と認めてくれる可能性は、限りなく小さいと言わなければならない。