アミのひとり言

事務所のアイドル犬アミのひとり言です。

英国、合意なきEU離脱

 今年1月末に英国は正式にEUを離脱したが、EU加盟国だった時と同じ条件で通商関係を維持していて、その移行期間終了が12月31日と決まっている。EU離脱の条件につきEUと合意点を見出すことができない状態でここまで来てしまったので、実質的に「合意なき離脱(Brexit with No Deal)」を選択したことになる。離脱条件はEU議会本会議及び英議会双方の承認を必要とするから、その期限が12月13日だった。英・EU両者は、今日、「継続協議で合意した」と発表したが、実際は合意できなかったということだ。

 

 合意がないままの離脱となると1月1日からの国境の混乱が予想される。今まで国境での税関などなかったのに、これからは税関を通らなければトラックもユーロトンネルも相手国に入れなくなる。こんな大げさな騒動になるとは予想せず、EU離脱派は「移民、EU拠出金負担、英国の国家主権」を問題としてEUからの完全独立を主張した。国境を厳重に管理すれば移民流入は阻止できるだろうが、国の魅力は薄れる。EU拠出金が多すぎるとのでたらめな主張には、根拠がないことがばれている。そして、EU規則に縛られず、英国は独自の国家主権を行使できなければならないとの主張も、27か国が団結して英国1か国と対峙する状況では、「小国」の国家主権でしかありえず、大英帝国の復活など夢のまた夢だ。

 

 英海域での漁業権などは、英国が自国の国家主権と主張するものだが、巨大な市場がEUとあっては、英漁船だけに漁業権を認めるなら、英国の猟師が捕った魚にEUが関税をかけることになり、結局EUに売る量が激減する。それどころかEUの他の国から入ってくる魚と価格競争することになり、関税分を安く売らなければならなくなる。英国の漁業者は漁獲高の3/4をEUに売っている。政治家が国家主権と主張することにより、仏、西、蘭、Belgium、Denmark、Irelandなどの漁業者と競合するため、英漁業者は関税相当分を値引きして売ることになる。

 

 EUは公正な競争のための規則を定めているが、英国が主権を主張して独自の規則を適用しようとするとEU規則と衝突する。その場合、英国とEU側が協議することになり、最終的には裁判所が判断することになるが、英国はEU司法裁判所と対峙したくない。一国の裁判所と27か国の裁判所では格が違いすぎ、英国の裁判所はEU司法裁判所に対等な相手とみられるはずもないからだ。漁業権問題で英国が不満をぶつけようとすると必ずEU司法裁判所が出てくる。英国はEU司法裁判所の権限が大きすぎてEUを離脱したのに、離脱後もEU司法裁判所の影響下に置かれることに反発しているから、そもそも合意などありえない話なのだ。

 

 Johnson政権はEU市場を捨てても米国があるとTrumpに期待していたようだが、Biden次期米大統領に決まって米英通商協定も悲観的になりつつあり、絶対にEUを軽視することはできなくなった。紛争解決の手法としてEU司法裁判所の実力は絶大であり、ここを敵視して自国の主権を主張したところで欧州の島国の遠吠えでしかない。合意なき離脱で確実に英国は衰退の道を歩み始める。