アミのひとり言

事務所のアイドル犬アミのひとり言です。

フランス映画界の巨匠が安楽死

 フランス映画界の巨匠ゴダール氏(Jean-Luc Godard、91才)が、9月13日にスイスの自宅で安楽死を遂げていたことが発表された。日本でいえば黒澤明に相当する映画監督だが、数々の栄誉・勲章を受けた割には、波乱万丈の人生だったに違いない。生涯で二度離婚し、三人目の妻Anne-Marie Miéville(76才)と3人の子供がいるが、最後は妻Anne-Marieに看取られて、孤独の安楽死を選んだ。残した財産は$2億7,500万(390億円)。

 

 彼は、日常生活に支障を来す疾患を複数患っていて、1年前からは、歩くことも起きることも難しくなり、杖なしでは歩けなかった。亡くなる数か月前から、重い疲労を訴えるようになり、食べたり飲んだりすることもうまくできなくなって、安楽死を選んだという。幸い、スイスは1942年から、判断能力があり利己的な動機を持たない人に対して、安楽死(消極的安楽死)を認めており、彼は、自殺幇助団体の会員として登録していた。人間の最期は、その人間の生き様の反映であると考えており、いかなる病であっても、人には人それぞれの死に方があると信じていた人だ。

 

 スイスでは、医師などが患者に直接薬物を投与するなどして死に至らせる積極的安楽死は、法律で禁止されており、認められているのは、医師から処方された致死役を患者本人が体内に取り込んで死亡する消極的安楽死(自殺幇助、PAS = Physician Assisted Suicide)だけ。①治る見込みのない病気、②耐え難い苦痛や障害がある、③健全な判断能力を有するの3条件を完全に満たし、更に、④安楽死以外に苦痛を取り除く方法がない、⑤突発的な願望でない、⑥第三者の影響を受けた決断でないことなどを自殺幇助団体が確認して、初めて実施される。

 

 安楽死が認められる背景には、西欧的自己決定権があるように思う。自分の「逝く日」を決めることは個人の自由であると。尊厳もまるでなく死んでいく自分を見たくない、その無力感に耐えられない。逆に、尊厳をもって「逝ける」ことを嬉しく思う、ということのようだ。ゴダール氏は、フランス映画界の巨匠としての尊厳を保つため、死ぬ権利を行使したのではなく、単に「悪い死」を避けるため、自分の運命を自分で切り開いた(終了させた)のではないかと考えられている。彼が残した言葉は“I am trying to change the world”(私は世界を変えたい)、彼の行動が、世界の安楽死に対する考えを変えることになるのかもしれない。