イタリア料理にイカ墨の spaghetti とか risotto(米) などがある。イカ墨の risotto とは黒いご飯(risotto nero)といってイタリア独特の料理だと現地で教わった。しかし、その後スペインに行ったら黒いご飯(arroz negro)というほぼ同じ料理があった。当然イタリアから入って来たものと思い、きいたら、スペイン人は、わが国独特の料理だと主張する。唯一の違いは米の硬さぐらい。イタリアの黒いご飯は spaghetti のように芯を残した少々硬いゆで方をしており、スペインの黒いご飯は、米が中まで柔らかくなるまでフライパンで煮てある。日本人には断然スペインの黒いご飯の方がおいしいと感じる。イタリア人とスペイン人に、どちらが 発祥の国か議論させても結論が出ない。結局、どちらの国の料理かなんて議論しても意味がないということに気がついた。イカ墨、トマト、オリーブ油、にんにくを使う料理は地中海料理の典型だから、これは「地中海料理」というべきものだろう。過去の歴史を見ても、イタリアもフランスもスペインも戦争ごとに国境が変わっていて、無理に国ごとに分けて分類することが無意味なのだと知らされた。
スペイン料理の典型と言われている乳飲み子の豚(cochinillo、生後1週間以内ときく)は、スペイン中部の町Segovia が発祥の地だとスペインで教えられた。確かに Segovia には cochinillo が食べられる restaurant がたくさんある。子豚の姿のまま皿に盛られ、食べると柔らかく、あたかもバターを食べているような感じだ。肉は柔らかいから、ナイフを使わずとも、皿で切ることができる。1匹分は2人前。ポルトガルにも同じような乳飲み子の子豚料理があると、出張で行った時にポルトガル人に教えてもらった。ポルトから南に80kmほど行ったところが、スペインの Segovia のような子豚料理の restaurantがたくさんある並ぶ町で、leitãoという名前で呼んでいた。スペインの cochinillo よりはやや大きく、1匹は3-4人前かと思われるから、生後2週間くらいは育てているに違いない。しかも肉はバターよりは多少硬めで「肉」に近いから、ミルクだけで育てているとは思えず、餌も与えているように感じた。ポルトガル人にこの子豚料理の発祥はスペインの Segovia でしょう?ときいたら、とんでもない、我々が食べているのをスペイン人がまねして、今ではスペインでも似たような料理が食べられるようになったのだと説明された。スペインに戻ってスペイン人にきくと、それこそとんでもない、ポルトガルの子豚は乳飲み子ではなく、餌を与えられた子豚だから、わが国の cochinillo とは別物で比較にならないと一蹴にされた。イベリア半島のこの2国は永遠のライバルで、議論をしても絶対に結論は出ない。過去は日韓のように戦争をした仲であり、野暮な質問をすること自体がナンセンスだ。子豚料理はイベリア半島の料理であると理解するのが賢明な結論であると認識するに至った。