かつてアメリカは中流階級が多く、それ故に国が繁栄していたと言われていたが、今やその中流階級は極端に減少し、一部の富裕層と多数の貧困層の両極端になった。最上位1%のアメリカ人の収入比率は全国民の30%、次の上位9%の富裕層の収入比率が20%だから、要するに、上位10%の富裕層階級が全国民の収入の半分を得ているというのだ。ということは、残り90%のアメリカ人で全国民の収入の半分を分けている。収入比率でみると、上位10%とその他90%は9:1、上位20%と下位20%の収入比率は40:1、これがアメリカの収入格差の現実だ。
成功も失敗も個人の努力の結果とする個人主義の発想で、資本を手にした者が社会を牛耳っているだけでは、社会は良くならず、安全な社会は実現しない。破れかぶれの貧困層・破産層が社会に報復して、結局は富裕層の身にも災いが降りかかってくるのが現実だからだ。中国でバスに放火して17人を殺害した男の動機も、借金問題から社会に報復しようとしたというもの。このような事件をなくすためにも、国の経済政策は、Finlandなど一部の欧州で導入機運のある最低生活保障(Basic Income)を目指すべきだと思う。
Basic Income制度は、すべての国民(市民)に一定額を毎月給付する。生活保護をもらっている人も働いている人も全員が対象になる。たくさん収入がある人に給付しても、結局その人から多く徴税するから、国の負担は名目給付額ほど巨額にならない。
新年1月からオランダ第4の都市ユトレヒトで変形Basic Income制度が実験的に始まった。対象者は、現在社会保障を受けている人だけだ。基本給付額月額900ユーロ(≒11.7万円)、所帯ある人は1,200ユーロ(≒15.6万円)、その後、仕事が見つかって働いても給付は止められず、収入に課税されるだけだから、給付をもらったら職探しもしなくなるということにはならない。市の財源に限りがあるため、今回、市民全員に給付とはいかないが、理想に向けた第一歩だろう。この制度で救うことができない対象者は、現在社会保障を受けていない低所得者(いわゆるWorking Poor)層だ。次はこのあたりも対象にして、最終的に全市民に給付することになるのだろう。
Finland政府が検討中のBasic Income制度の骨子は今年内に仕上げ、来年から試験的に始めるというが、実現すれば国家レベルで世界初となる。元々北欧各国は階層間の格差が小さいのに、更に先に進もうとしているところは、我が国も見習うべきだ。上位10%の収入と下位10%の収入を比較した表がある。Finlandも含め北欧各国は概ね5:1、それに対して日本10:1、アメリカは16:1。